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Sievert シーベルト(独)
概要
中低独Siverd「勝利+平和」という男名に由来。ジークフリート(Siegfried)と同語源。
詳細
Hannsz Siverdt(1489年ロストック(Rostock):水夫)1
Johann Syverdt(1556年Ravensberg(ノルトライン=ヴェストファーレン州北東部))2

父称姓。元ドイツ系で、ドイツ語ではズィーヴェルト。ドイツ北部に多い姓で、特にニーダーザクセン州に多く分布している。ドイツWikipediaによれば、スウェーデンの 物理学者ロルフ・マキシミリアン・シーベルト(Rolf Maximilian Sievert:1896.5.6ストックホルム〜1966.10.3同地)の祖父 (姓名は書かれていない)はドイツからの移民で、スウェーデンで工場主として成功を収め、息子のマックスが事業を引き継ぎ、 マックスの息子のロルフは父の死により更に事業を引き継いだとある3。然し他の資料では、 マックスは現在のザクセン州ゲルリッツ(Gorlitz)郡の町ツィッタウ(Zittau)に1849年に生まれ、26才の時にはベルリンに 自ら機械製造の事業を経営しており、ロシアやスカンディナヴィアに市場を開拓する為に尽力していたとしている 4。1880年代にスウェーデンの産業界は高度に発展し、1881年には彼は早速スウェーデンと ビジネス上の繋がりを作り、ストックホルムに移り住み新事業を始めたのだった。後に、下の弟2人をスウェーデンに呼び、 事業を手伝わせており、更に通信機器メーカーとして有名になるエリクソン社のお得意となった。以上の既述を踏まえると、 恐らく独Wikipediaの名前が不明の祖父の話は、父マックスの話を混同しているようにしか見えず、誤りであろう。 マックスの息子が物理学者ロルフで、この物理学者に因んで、放射線被爆量の単位の名前となっている。

姓の語源であるが、中低独Siverd5という中世末期から近世にかけてドイツ語圏北部で 頻繁に用いられた男性名に由来する。この名は更に古ザクセンSigufrith、Sigifrith6に 遡り、古ザクセン*sigi「勝利」7(古ザクセンsigidroht?n「主君」7の 第一要素に見える)と古ザクセンfrithu,frethu,fertha「平和、防御、安全」8より構成されている (今日の標準ドイツ語の男子名ジークフリート(Siegfried)は、同語源のドイツ語圏南部方言形に由来)。802年にライン 下流域地方でSieffred9の名が確認されている。第一要素の語末子音-gは弱化・消失し、直前の 母音iを長音化した。第二要素の母音iがeに転じているのは、低地ドイツ語でよく見られる音変化による。後、rとeの音位転換が 起こりSiverdとなった。

一方、Siverdは男名Siegwardに由来するとの見解もある10。この場合、第二要素は古ザクセン ward「番人、守護者」11(←ゲルマン*wardaz「守衛」)であることになる。然し第二要素の 母音aがeに転じる原因が不明で、にわかに信じがたい(iやeといった前舌母音は、ゲルマン祖語形を見ても判る通り後続して いないので、ウムラウトの可能性は有り得ない)。成る程、フェルステマンの古いドイツ人の個人名辞典のSigiwart項にも、 一例だけ第二要素の母音がeであるSigevert12の名を録しているが、他の名前は全て-wardや-wartの 形で、Sigevertという形は寧ろSiegfriedの古い低地ドイツ語形と見るべきだろう。

姓としてはSiewertの綴りも存在するが、中程の-w-の綴りがward「番人」を反映しているのか、Siverdの-v-を表しているのか 判定しにくい。又、ジーヴェルツ(Sieverts, Siewerts)という姓も主にドイツ北部を中心に存在するが、この場合は属格語尾の 中低独-esが後続してウムラウトを起こした可能性が考えられるので、Siegfried系とSiegward系両方の起源が有り得る。もし 仮にこの属格形から男名Siverdが逆成したのならば、Siegward系列の起源を持つ場合も一応考えられるが、根拠が薄い。
[Gottschald(1982)p.459,Kohlheim(2000)p.620,Bahlow(2002)p.475,Naumann(2007)p.254,Kunze(2004)p.167]
1 Walter Stark "Lubeck und Danzig in der zweiten Halfte des 15. Jahrhunderts."(1973)p.110
2 Ravensberg (Grafschaft) "Das Urbar der Grafschaft Ravensberg von 1556."(1960)p.198
3 http://de.wikipedia.org/wiki/Rolf_Sievert
4 Artur Attman"LM Ericsson 100 years. vol.1"(1977)p.62、 http://www.spiritburner.com/fusion/showtopic.php?tid/27/ 以降のマックスに関する記述は左記の2資料による。マックスの 出生地に関しては、スウェーデンWikipediaにも同様の記述がある(http://sv.wikipedia.org/wiki/Max_Sievert)。
5 Edvin Brugge "Vokalismus der mundart von Emmerstedt, mit beitragen zur dialektgeographie des ostlichen Ostfalen"(1944)p.103
6 Schade(1862)p.509
7 Kobler asW S項p.31
8 Kobler asW F項p.84
9 Forstemann(1966)sp.1092
10 Bahlow(2002)p.475、Haefs(2004)p.213
11 Kobler asW W項p.18
12 Forstemann(1966)sp.1098
13 尚、上掲の[]の各苗字本で姓Sievertの起源について、Siegward由来説を採っているのは Bahlow(2002)のみ。又、Heintze(1903)p.259ではSiewert姓を男名Siegbert(第二要素は「明るい」の意)と同源としているが疑問 (w→bの変化はドイツ語ではシューベルト(Schubert)姓の様に比較的良く見られるが、b→wの変化は殆ど例がない)。

執筆記録:
2011年3月29日  初稿アップ
PIE語根Sie-ver-t:1.*segh-「保つ」;2.*wer-4「気づく、見張る」; 3.*-to-分詞形成語尾

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