概要
ルワンダgusesa「追い払う」+ルワンダAbagina(氏族名)よりなり、「アバギナ族を追い払う者」の意。
詳細
ニックネーム姓。ルワンダのホテルの副支配人で、ルワンダ紛争でツチ族や穏健派フツ族の人々1268人をホテルに匿い保護したポール・ルセサバギナ
(Paul Rusesabagina:1954.6.15 Murama(南部州ギタラマ県ムハンガ地区)〜)の姓。この事件を題材にした映画『ホテル・ルワンダ』の
主人公でもある。姓のルセサバギナはルワンダ語で「敵を追い払うもの」を意味すると、日本Wikipediaの記事にはある
1(他の言語版では姓に関する言及無し)。ジャーナリストのスノウ(Keith Harmon Snow)氏とルセサバギナの
対談が載っているサイトの冒頭に、彼のバイオグラフィーが書かれており、そこにも姓の由来について記述がある2。
それによるとこの名は、1954年に彼が生まれたとき彼の父親が名付けたもので、「敵を追い払う戦士(warrior that disperses the enemies)」
の意であるという。
この名前がどのようなメカニズムで作られているのか調べてみた。上記の如く、この名前は「追い払う」と「敵」が意味の中核になっている。
姓の第二要素-sesa-が「追い払う」の意味で、ルワンダgusesa「撒き散らす、分散させる、解消する(o spread, disperse, dismantle)」
3の動詞語根に由来している(gusesaの語頭gu-は不定詞を作る接頭辞ku-の異化による異形。語頭Ru-は
動詞活用の接頭辞の様である)。問題は、「敵」を意味する部分-(a)baginaだが、この様な綴りの、或いは近い綴りの「敵」を意味する単語が
ルワンダ語には無く、「敵」は意訳であるらしい。-(a)baginaという最後の要素はルワンダのある氏族(clan)の名前で、詳しい事は良く
判らないがニャビンギ(Nyabingi)4という名の神を崇拝していた人達(この神を崇拝していたので、ニャビンギ
族と呼ばれた)と伝統的に敵対していた集団アバギナ(Abagina)の事であろう5。ニャビンギの名は1700年頃に
ウガンダ南部からルワンダ北部に掛けて広がっていた宗教の名前として初めて西洋の文献に登場した6。
アバギナ族の名の最初のaba-の部分は人を現すカテゴリー名詞7の複数形を現す接頭辞である。単数形だとumuginaと*umwaginaという
形が想定できるが、後者は実在しない単語である。umuginaは「蟻塚」という意味の単語としてルワンダ語に存在するが8、この単語は
人を現すカテゴリー名詞ではないので、複数形はimiginaである。或いは、氏族の構成員の名に別カテゴリーの名詞が転用されると、
人カテゴリーの名詞として改変されるのかもしれないが、この様な事例が一般的な事なのかは判らない。トーテム信仰が原因で、蟻塚を
氏族名にすることもあるかもしれない。とりあえずは、ルセサバギナとは「アバギナ(Abagina)族を追い払う者」を意味する渾名である。
1 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%82%B5%E3%
83%90%E3%82%AE%E3%83%8A
2 http://allthingspass.com/uploads/html-191The%20Grinding%20Machine%20interview%20with%20Paul%20
Rusesabagina%20FINAL.htm
3 http://kinyarwanda.net/index.php?q=gusesa&start=0
4 Nyabingiという名は、ルワンダ語で「多い」を意味するbinshiと語源上関係が有るらしく、「多くのものを所有する者」を意味する
(http://www.jstor.org/pss/40449478)。語頭のNya-は所属を表す接頭辞。ジャマイカの音楽ジャンルでニャビンギというのが有るが、
これも関係が有るようである。英wikipediaにはニャビンギの名をniya「黒い」とbinghi「勝利」の合成語としているが、言語名が記されて
おらず疑わしい。
5 Jim Freedman "Nyabingi: the social history of an African divinity."(1984)p.58
6 http://en.wikipedia.org/wiki/Mansions_of_Rastafari#Niyabinghi
7 ルワンダ語の全ての名詞は10のカテゴリーに分けられる。このカテゴライズは、丁度印欧語等の男性・女性・中性と名詞を
分けるのに相当している。印欧語は接尾辞・語尾で名詞カテゴリーを規定するが、ルワンダ語は接頭辞で規定する。10のカテゴリーの内
6個は単数形と複数形の区別があり、これにより更にまた接頭辞が変化する。
8 http://kinyarwanda.net/index.php?q=umugina&start=0
更新履歴:
2011年9月2日 初稿アップ
ニジェール・コンゴ語族語根Ru-sesa-ba-gina:1.未調査;2.未調査;3.未調査;4.未調査
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