Zaccheroni ザッケローニ(伊)
概要
①伊≪トスカーナ方言≫zaccherone「泥で汚れた汚ない人」に由来し、「服装がだらしの無い人、ふしだらな生活を送る人」を表す。
②イタリア人の男名ザッカリーア(Zaccarìa:語義「神は覚えたもう」)に由来。
③男名イザッコ(Izacco)の頭音消失形Zacco、又は男名ジャーコモ(Giacomo)から生じたZaccoに由来。
④伊≪ナポリ方言≫zàccaro「少年、幼児、生意気な人」に由来する可能性あり。
詳細
Iannis Zacheronis(1241年Firenze(トスカーナ州))1
Giunta & Bonannus Fratres fil. Pétri Zacheronis(1241年Firenze)1
Lorenzo Zaccherone marchigiano(1598年Ferrara(エミーリア=ロマーニャ州))2

かなり珍しい姓である。エミーリア=ロマーニャ州東部、特にフォルリ(Forli)県に集住。サッカー日本代表監督を務めたイタリアのサッカー指導者 アルベルト・ザッケローニ(Alberto Zaccheroni:1953.4.1 Meldola(エミーリア=ロマーニャ州)~)も同地域のメルドラ出身。語源は諸説あるが、③は 語形成上難が有り、疑わしい。
①ニックネーム姓。そのまま伊≪トスカーナ方言≫zaccherone「泥で汚れた汚ない人」の複数形zaccheroniに由来する。「服装がだらしの無い人、身なりの みすぼらしい人」、或いは比喩的用法で「ふしだら生活を送る人」を現わす渾名が姓となったもの。この単語は伊zacchera「(衣服・靴に付着した)泥っぱね」に 増大辞-oneが接続して派生しており、更に伊zacchera自体はランゴバルト語の*zahar3, 4(=古高独zah(h)ar「涙、しずく」) (英tear「涙」と同語源で、PIE*dakru-「涙」に遡る)を借用したものである。 即ち、ザッケローニの姓は英tear「涙」やヴィジュアルバンドのラクリマ・クリスティーのラクリマ(ラlac(h)rima,lacruma「涙」←古代ラdacruma)と同語源という 事になる。この音韻上の相対関係は、全く同じ語頭子音を持つPIE*dn˳ghū「舌」から生じた独Zunge「舌」,英tongue「舌」,ラlingua「舌」,古代ラdingua「舌」にも 規則的に見られ、一見すると全く関係ない様に見えて、実際には極めて近縁である印欧諸語彙の関係性を見せつける好事例となっている。

イタリア語にはこれ以外にも多くのzaccheraの派生語が有り、一般語としてinzaccherare「泥で汚す」,zaccaro「泥っぱね(schizzo di fango)」,zaccheroso 「泥のついた」等が、地名のZacchia(エミーリア=ロマーニャ州:初出Villa Zakara(1151年))がある3
[Fucilla(1949)p.70,Rossoni(2000)R項]
②父称姓。イタリア人の男名ザッカリーア(Zaccarìa)に由来する。新旧両方の聖書の登場人物の名で、旧約聖書の預言者の名、新約聖書の洗礼者ヨハネの 父親の名として現れる。ヘブライZͤkharyā́ͪ(語義「神は覚えたもう」)に遡る。この名前は、中世のキリスト教徒の間では古典的で格調高い名として捉えられていた らしく、ユダヤ人以外にもそれなりの人気を持っていた。
[Francipane(2005)p.733,Minervini(2005)p.519,Fucilla(1949)p.70,Rossoni(2000)R項]
③父称姓。他にも様々な男子名の異型や短縮形から派生した可能性が指摘されている。フチッラによれば、男名イザッコ(Isacco, Izacco)の頭音 消失形Zacco由来説、男名ジャーコモ(Giacomo)の語頭子音の直音化と語末シラブルの脱落によって生じた名Zacco由来説を挙げている。但し、この 説では第三音節の-r-の説明に困難が有る為、可能性としては低いだろう。
[Fucilla(1949)p.46,p.70]
④ニックネーム姓。ミネルヴィーニ本にZàccaro姓の項があり、異形にZàcchero姓を挙げている。語源は伊≪ナポリ方言≫zàccaro「少年、幼児、生意気な人 (ragazzo, bambino, impertinente)」とする。これに増大辞が接続して生じた可能性も排除できない。又、フチッラ本にZaccheroni姓の語源説の一つに ベルガモで「しつこい(importunate)」の意味に解釈されている旨記述が有るが、これ以上の言及が無く詳細が明らかでない。素人目には、このナポリ方言と 何らかの関係が有る様に見える。或いは、いずれも①と同語源で伊zacchera,zaccaro「泥っぱね」の特殊用法に由来しているかもしれない。
[Minervini(2005)p.519,Fucilla(1949)p.70]
◆伊zacchera「(衣服・靴に付着した)泥っぱね」←ランゴバルト*zahar=古高独zah(h)ar「涙、しずく」(>中高独zaher,zeher>独≪詩語≫Zähre)←ゲルマン*taχram,*taʒram (a語幹中性名詞)「涙」(古英tēar,tæhher,teagor「雫、涙」,古フリジアtār「涙」,古ノルドtár「涙」,ゴートtagr「涙」)←PIE*dakru-「涙」(ギdákru「涙」,ラlacrima, lacruma(<古代ラdacrima,dacruma)「涙」,古アイルランドdér「涙」,中ウェールズdeigr「涙」,リトアニアãšara「涙、真珠」,サンスクリットaśru「涙」, アヴェスタasrū-「涙」,アルメニア≪古語・詩語≫artōsr「涙」,トカラA ākär「涙」,ヒッタイトisḫaḫru≪複数形≫「涙」)5
アルバニア、スラヴ両語派以外の主要語派全てに対応が見つかっている。主に東軍で見られる語頭子音d-の脱落の理由は不明。
1 Joannes Lamius "Sanctae ecclesae florentinae monumenta composita et digesta."(1758)p.919
2 Giovanni Battista Aleotti "Dell' interrimento del Po di Ferrara e divergenza delle sue acque nel ramo di ficaloro."(1847)p.59
3 Antonio Polloni "Toponomastica romagnola."(1966)p.340
4 前出のポッローニの地名語源辞典には、この未文証のランゴバルト語の語義を「泥、ぬかるみ、ぬかるんだ土地 (fango, mota, terra pantanosa)」と設定しているが、証拠が無い為省略した。「涙」→「雫」→「飛沫」→「泥っぱね」→「泥」の転義と考えられる。
5 英語語源辞典p.1409、Pokorny(1959)p.179、Watkins(2000)p.14、Buck(1949)p.1130、http://en.wiktionary.org/wiki /Appendix:Proto-Indo-European/d%C3%A1%E1%B8%B1ru-

執筆記録:
2014年7月11日  初稿アップ
PIE語根Zaccher-on-i①: 1.*dakru-「涙」; 2.*-en- 名詞・形容詞形成接尾辞; 3.*-i 強意・現在・複数を表す語尾
②:1.セム語; 2.*-en- 名詞・形容詞形成接尾辞; 3.*-i 強意・現在・複数を表す語尾
④: 1.(?)*dakru-「涙」; 2.(?)*-en- 名詞・形容詞形成接尾辞; 3.*-i 強意・現在・複数を表す語尾

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