概要
中オランダruum,rūme「広い」+中オランダpat「道」の単数与格padeよりなり、「広道」を意味する喪失地名に因む。
詳細
Walterus de Rumpade(1290年Mechelen(ベルギー、アントウェルペン州))=Woutre van Rumpade(1301年、同地)=Woutre van Ruympade
(1307年、同地)1, 2
Jacob van Rompay(1406年Antwerpen(ベルギー))1, 2
地名姓。ベルギーの政治家へルマン・ファン・ロンパイ(ヴァン・ロンパイ)(Herman Achille Van Rompuy:1947.10.31 Etterbeek(ベルギー、ブリュッセル首都圏地域)~)の姓。
ネイティブの発音を聞く限りでは、ヴァン・ロンパイと言っている様に聞える3。同語源の現存する
異綴のオランダ姓にファン(ヴァン)・ロンパイ(van Rompaeij、van Rompaey)、ファン(ヴァン)・ロンプー(van Rompu)、ロンパ(Rompa)等が
あり、甚だヴァリアントの多い姓である4。
地名に由来していることは明白だが、オランダ語圏に存する現存地名にこれに類するものが無く、恐らく喪失地名に因むものと思われる。
苗字の古い綴りから、原義は「広道」(中オランダruum,rūme「広い」5+中オランダpat「道」6)と
解釈できる2。従って、第一要素Rom-は英語のroom「部屋」(本来は「広い」の意の形容詞を中性名詞に改変・転用したもの
)と、第二要素-puyは英語のpath「小道」と同語源。
次いで音韻の推移について説明する。オランダ語の方言では、母音間の-d-が15世紀から消失する例が見られるようになる7
。この苗字の場合、与格支配の前置詞vanに後続しているため、第二要素の中オランダpat「道」は格変化により単数与格形padeの形をとり(姓の古形がそれを裏付け
ている)、この音変化が適用され-d-が失われた。中世オランダ語では、閉音節末のtは格変化により母音が後続する場合dに転じる。
又オランダ語南部方言では、母音間で消失したdの後に残った母音は/j/に転じる傾向がある。RompuyやRompaeijの語末はその現れ。
現在のオランダpad「小道」の語末-dは、母音が接続して有声化した斜格形からの類推によるものだろう。同様の例は中オランダbat「風呂」→
現代オランダbad「風呂」(=英bath)にも見られる。
[Debrabandere(2009)p.295]
1 http://www.meertens.knaw.nl/nfb/detail_naam.php?gba_naam=Van Rompaey&nfd_naam=Rompaeij, van (y)&info=
documentatie&operator=eq&taal=
2 Debrabandere(2009)p.295
3 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Pronunciation-Herman_Van_Rompuy.ogg
4 http://fr.wikipedia.org/wiki/Van_Rompaey
5 de Vries(1997)p.594
6 de Vries(1997)p.500
7 例えば、米国のニューヨークのブルックリン(Brooklyn)の地名は、オランダのユトレヒト近郊にある村ブルーケレン(Breukelen)の名に
因んでいるが、この村名も同じ音韻変化を経験している。地名の歴史上の変遷を挙げる。
apud villam, que Broclede dicitur(1139年)1
omnia usque Brukleth(1204年)1
Brokelede(1280年)1
Broicleede(1307年)1
Broeckelen(1573年)1
第一要素は中オランダbroec,brouc「沼、湿地」(英brook「小川」と同語源)、第二要素は中オランダlēde,leide「道」(英load「荷」と同語源)に
由来している。『ランダムハウス英語大辞典』では地名の原義を「沼沢地」とするが、前半要素しか説明できていない為不完全。
尚、オランダ語の母音間のdの消失は徹底して波及しなかったため、この条件を持つ諸語彙はdを失ったものと、失っていないものが
半々存在する結果となった。
更新履歴:
2012年7月2日 初稿アップ
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