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Triendl トリンドル(独)
概要
①古い男名Truontoの指小形より。男名は、古高独の動詞trūēn「信用する」,drouwen「脅かす、非難する」,druoēn「苦しむ、耐える」いずれかの 現在分詞に由来。
②女名カタリナ(Katharina:語源不明)に由来。
③独≪古語、方言≫Trendel「独楽(コマ)」に由来し、「ぶらぶらしてる人」を意味する。
詳細
Peter Triendl(1439年Schönberg im Stubaital(墺、ティロル州))1
Clauß Triendl(1673年Stubai(墺、ティロル州))2, 3
Lorenz Triendl(1729年Stubai)2

日本の女性ファッションモデル、タレントのトリンドル玲奈(レイナ)(Triendl Reina:1992.1.23 Wien~)の姓。より正確にはトリーンドル。父親がオーストリア人で、ウィーンに 生まれた4。標準ドイツ語の語末指小辞-elの母音が消失して-lとなるのは、オーストリア方言に特徴的。ドイツ国内では、バイエルン州 南東部に多く、オーストリアでは西部のチロル州に多い(特にインスブルック市と、市を囲むインスブルック・ラント郡に集住)。後者は、 ティロル州シュトゥーバイタール(Stubaithal)発祥。トリーントル(Trientl)、ドリーンドル(Driendl)各姓と通ず。語源に関して以下の3つの説が 提唱されている。①と③が、語形上無難な説。
①父称姓。古高独の男子名トルオント(Truonto)の文証されていない指小形トルオンティロ(*Truontilo)に由来すると見られる。男名Truontoは フェルステマンの古ドイツ人の個人名辞典にすら掲載されていない大変マニアックな名前だが、次に挙げる様に実際の用例が有る。
Truonto de Graben(1150年)5
Truonto de St. Petro(1151年Salzburg)6
後には、母音弱化やウムラウトが進行した語形で現れている例がある。
Truente de Gunderammeſtorf(1187年Klosterneuburg(ニーダーエーステライヒ州))7

男名Truontoは後半要素-ont(o)-から動詞の現在分詞を語源としていると判断できる。その動詞の候補としては、古高独trūēn「信用する、信頼する」 8(>独trauen)、古高独drouwen「脅かす、非難する、罵る」9(>独drohen「脅かす、威嚇する」 )、古高独druoēn「苦しむ、耐える」10である。つまり、この名は「信頼する者」「非難する者」「耐える者」といった意味の 候補が考えられる。弱化形Truenteから 指小形*Truentil、*Truentelが生じ、更に第一音節のuがウムラウトを起こし、加えて最後の母音が弱化・脱落してトリュエントル(*Trüentl)に、 最後にüがバイエルン方言に良く見られる非円唇音化を起こして*Trientlとなったのだろう。更に語末の有声子音に挟まれた-t-が同化により有声の -d-に変化してTriendlが生じたとすれば、旨く説明できる。
[Finsterwalder(1978)p.246、p.555、Hintner(1903)p.26]
②母称姓。ドイツ人の女名カタリナ(Katharina)(←ギAikaterínē←?。語源不明)の頭音消失形に指小辞がついて生じたとする説がある。
[Gottschald(1982)p.496、Hintner(1903)p.26]
③ニックネーム姓。独≪古語、バイエルン=シュヴァーベン方言≫Trendel「独楽(コマ)」11, 12に由来し、「ぶらぶらしてる 人」を意味するという説が有る12。この語自体は中高独trendel「球、独楽」を経由して古高独trendila,trindila,trennila 「独楽」に遡る11
[Gottschald(1982)p.496]
◆独drohen,dräuen「脅かす、威嚇する」←中高独dröu(we)n,dro(u)wen,drōn「脅かす」←古高独drouwen,drewen「脅かす、非難する、罵る」← drawa,drowa,drewa,drōa「脅し、脅迫、非難、折檻、罰、重荷」←ゲルマン*þrawō(ō語幹女性名詞)「心痛、脅し」(古英þréa,þrawu「脅し、叱責 、非難、折檻」)←PIE*terə-「擦る、曲げる」13, 14
◆古高独druoēn「苦しむ、耐える」←ゲルマン*þrōwēn「苦しむ」(古英þrowian,þrāwian「苦しむ」)←PIE*terə-「擦る、曲げる」13。ケーブラーによる説。 印欧語根からゲルマン祖語形までの派生過程が良く判らない。ゲルマン祖語*þrōwēnの-ē-は状態動詞形成接尾辞と思われる。英語語源辞典では 語源不明とする15。ゲルマン*þrōwēnの名詞形に*þrōwō(ō語幹女性名詞)「苦しみ」があり、古ザクセンthrauwa「脅し」, 古ノルドþrā「憧れ、要求」の対応がある。恐らく、上掲の同根だが別語のゲルマン*þrawō「脅し」と混同されたと見え、古ザクセンの対応は「脅し」の 意味になっている(cf.古フリジアthrū(w)a「脅す」)。
◆独≪古語、方言≫Trendel「独楽」←中高独trendel「球、独楽、円盤」←古高独trendila,trindila,trennila「独楽」(-ilaは指小辞)← ゲルマン*trend-「盤や車輪に使う木の幹から切り取った部分」(古英trinda「丸い塊」)←?16。語源不明。ケーブラーは、 trendilaは古高独trennen「分ける、解(ホド)く」に由来すると見る。更に、ゲルマン*trannjan「分ける、割る」を経由して、PIE*der-「酷使する、 割る」に遡るとする17。然し、語根からの派生過程が良く判らない。「分ける」から「独楽」の意味変化も無理が有る ように思える。古英tryndel「円、輪」は同語源だが、古英trendan「回る、回転する」から派生した単語である。従って、この動詞の祖形である ゲルマン*trandijanan「回転する」から、古高独trendila「独楽」が生じたものとも考えられる18
1 Zentral-Kommission für Denkmalpflege In Wien "Mitteilungen."(1895)p.295
2 Hintner(1903)p.26
3 Ignaz Vinzenz Zingerle,Karl Theodor Ferdinand Michael von Inama-Sternegg "Die tirolischen Weisthümer: T. Unterinnthal. vol.2 part.1"(1875)p.273
4 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E7%8E%B2%E5%A5%88
5 "Monumenta Boica. vol.5 part.1"(1838)p.70
6 Andreas v. Meiller "Regesten zur Geschichte der Salzburger Erzbischöfe Conrad I., Eberhard I., Conrad II., Adalbert, Conrad III. und Eberhard II."(1866)p.66
7 Akademie der Wissenschaften in Wien. Historische Kommission "Fontes rerum Austriacarum: Österreichische Geschichtsquellen. vol.4 : Codex Traditionum Ecclesiae Collegiatae Claustroneoburgensis."(1851)p.58
8 Köbler ahdW T項p.47
9 Köbler ahdW D項p.54
10 Köbler ahdW D項p.56
11 Köbler ahdW T項p.37
12 Gottschald(1982)p.496
13 Köbler idgW T項p.22
14 Wahrig(1981)sp. 947
15 英語語源辞典p.1432
16 英語語源辞典p.1460
17 Köbler idgW D項p.28
18 http://en.wiktionary.org/wiki/trend

執筆記録:
2012年7月17日  初稿アップ
2012年7月23日 誤植(脱字)を修正 
PIE語根①Tri-end-l:1.*dreu-「固い」、又は*terə-1「擦る、曲げる」;2.*-nt- 現在分詞形成接尾辞 ;3.*-lo- 指小辞
②Triend-l:1.語源不明;2.*-lo- 指小辞
③Trie-nd-l:1.*der-4「酷使する、割る」;2.未調査;3.*-lo- 指小辞

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