Schopenhauer ショーペンハウアー(独)
概要
中低独schōpe「柄杓」+中低独houwer「切り落とす者」で、「木製柄杓製造職人」の意。又、低独Schopenhauer「木製桶職人」より。
詳細
Herman Schopenhouwer dem hoveheren to Sendte Iorgen(1408年Toruń(ポーランド、クヤヴィ=ポモージェ県))1
Schopenhower(1438年Ahnsbeck(ニーダーザクセン州):個人名記録無し)2
Hans Mayer oder Schoppenhower(1467年Bad Zurzach(スイス))3
Bertold Schopenhawer(1456年Wernigerode(ザクセン=アンハルト州))4
Hans Schopenhauer(1654年Uelzen(ニーダーザクセン州))2

職業姓。ドイツ北部。ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer:1788.2.22 Gdańsk(ポーランド)~1860.9.21 Frankfurt a. M.(ヘッセン州))の姓。中低独schōpe「(煉瓦職人等が用いた)柄杓、(特に)ビール醸造職人が用いる汲出し柄杓」 5+中低独houwer「切り落とす者」6より形成され、「木製柄杓製造職人」を意味する。 また後代では、低独Schopenhauer「木製桶職人(Holztrogmacher)」7という語が有り、この単語に由来している 場合もある。いずれにしても同語源。

中低独schōpe「柄杓」の語源ははっきりしていない。ゲルマン語の本来語としての語源遡及も試みられているが、対応語が西ゲルマン 諸語にしか確認できない点、これらの語が文献に現れる時期が遅い点、また音韻上の理由から困難があり、下記に示すように フランス語か中世ラテン語から借用されたラテン語起源の単語と考えられる。
[Gottschald(1982)p.444, Zoder vol.2(1968)p.553, Kohlheim(2000)p.595, Bahlow(2002)p.456, Naumann(2007)p.250]
◆中低独schōpe「柄杓」←(?)俗ラ,中ラ*scuppa,*scûpa,*scôpa「(?)水を汲み出す道具」(仏écope「閼伽(アカ)取り(船底に溜まった水を掻い出すバケツ ・手桶)」(15世紀初出),古コーンウォールecope「(特に洗面用)広口水差し(lepista)」(15世紀初出:仏語からの借用),中蘭schope「水を汲み出す為に使うバケツ」,中高独 schuofe,schuoff,schu(e)ffe,schûfe,schôfe,schoffe「液体をすくう為の道具、水汲み用バケツ」)(混淆)←ラscyphus「コップ、大杯」 (←ギskúphos「杯、大杯」←(?)PIE*skep-「切る」)+ラcuppa,cūpa,cōpa「コップ、杯、桶、樽」(←(?)PIE*keu-「曲げる;丸い物、中空の物体」) 8。この説はフランク(Johannes Franck)とファン・ワイク(N. van Wijk)によるオランダ語語源辞典に見える (初めて提唱したのは彼等ではないらしい)。

ゲルマン語本来語として見る説だと、米国の歴史言語学者ハーパー(Douglas Harper)が唱える西ゲルマン*skōpō9を 想定し、PIE*skep-「切る」に遡るとするものが有る10。この案は、PIEの語根*skepの母音延長o階梯に 女性名詞形成接尾辞が接続した*skōp-ā経由を想定していると思われる (マルピコス註)。然し、母音間のPIE*-p-は摩擦音化してゲルマンѣ[β]に至り規則的に低地ドイツ諸語では[v]に発達するので、音韻上問題がある。 それ以外は正則。

尚、語形語義共に酷似する蘭schop「シャベル」(>日本 スコップ),中蘭sc(h)uppe,sc(h)up「シャベルの刃」(1343年初出),独Schüppe,Schippe≪女性名詞≫「シャベル」,古フリジアskuppe ≪女性名詞≫「シャベル」,中低独schuppe≪女性名詞≫「掘り道具、シャベル」という一連の語は、ゲルマン*skupp(j)ōが語源に想定されている8。 こちらは、PIE*skeubh-「押しだす」のゼロ階梯*skubh-に分詞・形容詞・名詞派生接尾辞*-nó-が接続したPIE*skubh-nó-が起源とされている。 子音連続-bhn-は同化によりゲルマン祖語で重子音-pp-に発達したとされる。この現象はクルーゲの法則(Kluge's law)と呼ばれているが、 この様な例が他にも何例か確認できない限り鵜呑みに出来そうもない。尚、西ゲルマン諸語はゲルマン祖語における[j]の前の子音を 重子音化させるのでゲルマン*skupjōも再建可能である。この場合は、*skeubh-「押しだす」に*skeub-という異形が有った事を想定する必要がある。 英shovel「シャベル」,独Schaufel「シャベル」等も形義相似た語群だが、こちらは*skeubh-「押しだす」に遡るのは確実と思われる11。 因みに、英語のscoop「スクープ」の原義は「水などをすくい出すシャベル」で、中低独schōpe「柄杓」と中蘭schoppe「シャベル」(>蘭schop)の 借用&混淆によって生じた語である。従って、英scoopは、上記のラテン語起源説が正しいなら、二度の混淆を経験していることになる。 「スクープ」の語義はアメリカ英語の商業業界におけるスラングが起源で、「商売敵を排除するために盗用する」という動詞用法(1850年頃)に因んでいる10
1 http://www.ksiegipruskie.bydgoszcz.ap.gov.pl/projekt/zapiski.php?id_data=189&id=12&id_nr=10745
2 Zoder vol.2(1968)p.553
3 Zurzach (Switzerland). Saint Verena Collegiate Church "Die urkunden des stiftes Zurzach."(1873)p.249
4 Märta Åsdahl Holmberg "Studien zu den niederdeutschen Handwerkerbezeichungen des Mittelalters: Leder- und Holzhandwerker."(1950)p.245
5 Lübben(1888)p.332
6 Lübben(1888)p.150
7 http://forum.danzig.de/archive/index.php/t-8284.html、http://www.ahnenforschung-grohn.de/deu/diverses/berufe.htm#Berufe_S
8 http://www.etymologiebank.nl/trefwoord/schop3
9 ハーパーの運営するWeb英語語源辞典"Online Etymology Dictionary"による。このサイトは特殊アルファベットが殆ど用いられていない ため(そういう仕様なのか?)、祖語形が*skopoとなってしまっている。*skōpōが正確な表記なので、私が勝手に修正した。
10 http://www.etymonline.com/index.php?term=scoop&allowed_in_frame=0
11 http://en.wiktionary.org/wiki/shovel#English、http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_s.html

更新記録:
2014年12月22日  初稿アップ
PIE語根S-chop-en-hau-er: 1.(?)*(s)kep-¹「切る、刻む」; 2.(?)*keu-²「曲げる;球体」; 3.*-e/on- 名詞・形容詞形成接尾辞; 4.*kau-²「叩き切る、殴る」; 5.語源不明

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