概要
中高独slei(g)er,sloi(e)r「頭巾、ベール」+中高独macher「職人」より成り立ち、「頭巾・ベール職人」の意。
詳細
Johann Sleigermacher(1519年Wildungen(ヘッセン州)、教会の鐘つき男)1
職業姓。比較的珍しい姓で、ドイツ西部に多く分布。ドイツの神学者・哲学者フリードリヒ・ダニエル・エルンスト・シュライアマハー
(シュライエルマッハー)(Friedrich Daniel Ernst Schleiermacher:1768.11.21 Wrocław~1834.2.12 Berlin)の姓。
中高独slei(g)er,sloi(e)r,sle(h)ir,slogi(e)r,sloiger,sloyger,sleyer,slair,slewer,slowir,slöuger,schle(i)ger,schlo(g)er「頭巾、ベール」
2(>独Schleier)と中高独macher,machir「職人」3(>独Macher)よりなり、「頭巾・ベール
職人」を意味する。
[Gottschald(1982)p.435,Kohlheim(2000)p.582,Bahlow(2002)p.446,Naumann(2007)p.245,ONC(2002)p.551]
◆中高独slei(g)er,sloi(e)r「頭巾、ベール」←slēwen「鈍くなる、ぐったりする」←古高独slēwēn,slēwon「萎れる、だらける、やつれる」←ゲルマン
*slaiwēn,*slaiwǣn「鈍くなる」(中オランダslōen「引く、引きずる」,古ノルドsljōva,slæva「鈍くする」(<ゲルマン*slaiwōn「鈍くする」))←
PIE*(s)lēu-「垂れ下がる;ゆるい」(ゴートslawan「黙っている」,リトアニアslúgti「減らす、小さくなる」,セルボ=クロアティアlútati「ゆっくり歩く」)
4。
中高独slei(g)erは13世紀中頃以降用例がある5。上掲の様に、中高独slēwen「鈍くなる、ぐったりする」の動作主派生
名詞で、原義は「垂れ下がるもの」と思われる。蘭sluier「ベール」も、同じ語源の動詞である蘭slooien,中蘭slōen「引く、引きずる」から派生しており
、平行した発達を示している。然し、蘭sluier「ベール」は1527年が文献上の初出でかなり後代である為5、ドイツ語
からの借用の可能性も考慮すべき。独Schleier「ベール」の語源説としては、Wikitionary英語版の古ノルドský「雲」(>英sky「空」)との語源的関係性を
想定する説があるが6、形義両面から考えて有りえそうも無い。また十字軍によってオリエントのイスラム圏から
借用されたとする説もあるが、その借用元の語彙が何であったかは説明不能である7。
尚、語根のPIE*slēu-「垂れ下がる;ゆるい」はゲルマン、バルト、スラヴ各語派にしか対応がなく、祖語に遡るかは疑わしい。中アイルランド
lott「娼婦」が加わればケルト語派の対応も有る事になるが、元来古ノルドlodda,lydda「だらしの無い女」からの借用と考えられる。
1 C.A. Starke "Deutsches Geschlechterbuch. vol.144"(1967)p.xxv
2 Lexer vol.2(1876)sp.985
3 Lexer vol.1(1872)sp.2003
4 Kluge(1975)p.342、Pokorny(1959)p.962-963、de Vries(1997)p.652、Köbler idgW S項p.134、
http://gtb.inl.nl/iWDB/search?actie=article&wdb=WNT&id=M064275&lemmodern=sluier
5 http://gtb.inl.nl/iWNTLINKS/DATADIR/paginazy.html?EWN+/iWDB/search?actie=article_content&wdb=EWN&id=ewn010678
6 http://en.wiktionary.org/wiki/Schleier
7 Kluge(1975)p.342
執筆記録:
2012年8月5日 初稿アップ
PIE語根Schlei-er-mach-er:1.(s)lēu-「垂れ下がる;ゆるい」;2.語根不詳;3.*mag-「こねる、形作る」;4.語根不詳
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