Bartolinus Scarmillione filii Benivieni(1268年Firenze(トスカーナ州))
1
Giovanni Battista Scarmiglione(1585年Roma)
2
ニックネーム姓。現在、ローマに一軒確認される稀姓。伊scarmigliare「髪を乱す」の動詞語幹に増大辞-oneが接続して生じた渾名に由来し、
原義は「乱れ髪の大男」。上掲以外の古い人名用例では、1435年にフィレンツェの、及び1435年ペルージャ(Perugia)の馬上槍試合の勝者として
Iscarmiglioneという軍人の名が記録されている
3(但し、個人名か苗字、どちらなのか不詳)。又、17世紀初頭に
ドイツでいくつかの著作を出版した
Vidus Antonius Scarmilionus4という人物の存在が知られている。
この人は名前からして明らかにイタリア人だが、出生地や居住地といったデータが確認できない。
イタリアの詩人ダンテ(Dante Alighieri: 1265~1321)の叙事詩
『神曲(Divina Commedia)』 地獄篇第二十一歌から第二十三歌に登場する地獄界(第八圏第五の嚢)で死者を罰する12人の鬼
マレブランケ(Malebranche)
の一人の名前でもある。Wikipedia日本語版などでは、マレブランケの名前ではスカルミリオーネとカナ転写しているが、
スカルミリョーネの表記がより原音に近い。
『神曲』のマレブランケの名は、作者ダンテの同時代の人物の名をもじって造られた可能性が指摘されている。マレブランケのスカルミリョーネの
名も、その元ネタについては幾つか説が出されている。伊仏文学者のウィスコンシン大学名誉教授
クラインヘンツ(Christopher Kleinhenz)は、ルッカ(Lucca:トスカーナ州北西部の都市)にScarmiglioneという姓の家族が
居たとしている
5。又、トッラーカ(F. Torraca)によると、フィレンツェでスコルミッリョ(Scormiglio)という名前が
見られるとしている
6。又、フランス王フィリップ4世(在位:1285~1314年)によって1296年トロワ(Troyes)の王宮道化師長
(rex juglatorum)に任命されたジャン・シャルミヨン(Jean Charmillon)なる人物の名との関連が、イタリアの中世文献学者
アレッショ(Gian Carlo Alessio)と、伊仏文学者でプリンストン大学名誉教の
ホレンダー(Robert Holländer)の共著の中で
示唆されている
7。この本では、Charmillonという仏姓は、フランス語の動詞charmer「魅了する」(英charmはその借用)と
名詞mignon「活発な少年、居候(ragazzo di vita, parassita)」(独Minne「愛」と関連)から構成されるとするが、音韻的にも語構成上にも問題が有り、
モルレの仏姓語源辞典の指摘の通り仏charme「魅力」に指小辞-illonが接続して生じた姓と見るのが無難だろう
8。
ゲーム『ファイナルファンタジー4』(1991年7月)のボスキャラ「スカルミリョーネ」は、このマレブランケのスカルミリョーネの名に因む。
◆伊scarmigliare「髪を乱す」(ヴェネツィア方言sgramignà「髪の毛が乱れた」)(頭音消失、m-n→m-lの異化)←ラ*discarmināre「髪を乱す」←
dis-(動詞に付けて反対の意味を表す接頭辞)(←PIE*dw-is「二度」←*dwo-「2」+*-és 属格語尾)+carmināre「(羊毛・亜麻を)梳く」←carmen「(羊毛・亜麻などを梳く)梳き
櫛」←cārere,carrere「(羊毛・亜麻を)梳く」+-men(名詞形成接尾辞)(←PIE*-ment-)←PIE*kars-「梳く」(中低独harst「熊手」,リトアニアkar̃šti「梳く」,
露korósta「(疥癬の)かさぶた」,サンスクリットkaṣati≪3単現≫「こする、削り落す」)
9, 10。
英語語源辞典ではcārereをcarēreとしているが誤りとみられる
11(-ēreは静態動詞の接尾辞なので、意味的にもcarēreに
なる筈がない)。PIE語根の*kars-の-s-が消滅して前の母音aが代償延長を起こしcārere、-rs-→-rr-の同化を起こしcarrereの二形が生じた。
イタリア語内のm-n→m-l異化は珍しい現象だが、同様の例としてラarmeniaca「アンズ」から生じた伊megliaca「アンズ」の例が挙げられている
9。正し、この語は伊mela「リンゴ」(cf.ラmalum armeniacum「アンズ(原義「アルメニアのリンゴ」)」)の影響による変化でも
あり
12、音韻的理由のみで伊scarmigliareと比較は出来ない。
1 Ildefonso di San Luigi "Delizie degli eruditi toscani. vol.8"(1777)p.268
2 http://fuggerzeitungen.univie.ac.at/zeitungen/cod-8958-753r-754v
3 Duccio Balestracci "Le armi, i cavalli, l'oro: Giovanni Acuto e i condottieri nell'Italia del Trecento."(2003)p.252
4 ソースは
http://viaf.org/viaf/50060599/等多数。
5 Richard Lansing編集主幹 "The Dante Encyclopedia."(2011)p.302
6 Hermann Gmelin "Dante Alighieri: die göttliche Komödie: Die Hölle."(1954)p.328
7 Gian Carlo Alessio, Robert Holländer "Studi Americani su Dante."(1989)p.80
8 Morlet(1997)pp.172f.、p.203
9 Napoleone Caix "Studi di etimologia italiana e romanza."(1878)p.147、http://www.etimo.it/?term=scarmigliare&find=Cerca
10 英語語源辞典p.196、Pokorny(1959)pp.532f.、Watkins(2000)p.37
11 英語語源辞典p.198
12 L. Manzoni, E. Monaci, E. Stengel "REVISTA DI FILOLOGIA ROMANZA DIRETTA."(1875)p.80
更新履歴:
2015年7月2日 初稿アップ