Wiƚƚo de Rwyirford(1200年頃、スコットランド)
1
Nicholas de Rothirford(1296年、スコットランド)
2
Margery de Rotherforde(1306年Doddingestone
3(ノーサンバーランド州))
4
Ricard de Rothyrford(1370年Edinburgh(スコットランド))
5
地名姓。英国の物理学者アーネスト・ラザフォード(Ernest Rutherford:1871.8.30 Brightwater(ニュージーランド)~1937.10.19 Cambridge)の
姓。1881年の統計では、イングランドとスコットランドの国境地帯に集住。1200年の初出形Rwyirfordの-y-は無声歯摩擦音
[θ]を表わす古期英語の字母þ(thorn)の代用文字(写真参照)。欧州で印刷技術が先んじて発達したドイツやイタリアの印刷機のフォントには、
yは多用され重要な位置を占めていたが、þというフォントが無かったため。þの崩れた字形がyに似ていた為、当てられたようである。
以下の地名に由来。
●英国北部スコットランド南部、スコティッシュ・ボーダーズ北部カーロプス(Carlops)村の小地名ラザフォード(Rutherford)
●英国北部スコットランド南部、ロックスバーグシャー(Roxburghshire)北部マクストン(Maxton)村内の集落ラザフォード(Rutherford)
●英国イングランド北部、ダラム(Durham)州ダラム行政区域スカーギル(Scargill)村内の集落ラザフォード(Rutherford)
いずれも、古英hrīþer,hrӯþer「牛」
6,中英rother,reother,rither,rether「牛」
7
(>英≪方言≫rother「雄牛」)+古英ford「(歩いて渡れる)浅瀬」
8,中英ford,furd,forth「浅瀬、通路、森の小道」
9(>英ford)より形成。地名・姓に見えるfordはMEDによれば、意味を特定すことは困難だとしている
9。英fordはPIE語根の*per-「通過する」に、動詞語根から抽象名詞を形成する接尾辞*-tu-が接続して
生じたと考えられており
10、それならば「通行場所、渡り」と訳しておく方が無難と考えられる。「牛渡(ウシワタリ)」と
しておけば、日本語にも同じ固有名詞が有るので、イメージや雰囲気を摑みやすいし、何となくカッコいい。尚、上記三件の地名のうち
最後のダラムのものは、当地域に本姓の分布が限られているので、スコットランドの二つのRutherfordに由来していよう。
[Reaney(1995)p.387,Harrison(1912-1918)vol.2 p.130,ONC(2002)p.538]
◆古英hrīþer,hrӯþer「雄牛」←ゲルマン*χrinþaz(弱格語幹*χrundiz-)(z語幹中性名詞)「乳牛」(古フリジア(h)rīther,(h)rē-th-er,hrī-d-er
「牛」,中蘭rint,rent「牛」,古ザクセンhrīth「牛」,古高独(h)rind「牛」)←(?)PIE*ker-「角」
11。
英≪方言≫rother「雄牛」は、英語におけるゲルマン祖語のz語幹名詞(<印欧祖語のs語幹中性名詞)の最後の生き残りである。children「子供たち」
の-r-も同起源で、現代英語ではこの2語以外は固有名詞に残るのみ。同語源の独Rindは複数主格形Rinderの語末にs語幹の残滓が現れる。
英語では、z語幹形成接尾辞の後に更に語幹形成母音が接続して通常の強変化名詞に改新され、この為z(→rはrhotacismによる)が奇跡的に
残ることになった。ゲルマン祖語の-n-は英語では摩擦音の前で規則的に脱落し(cf.英other=独ander「他の」、英tooth=独Zahn(古高独zand)「歯」)
、その直前の母音が長音化した(代償延長)。
上掲のように、PIE語根*ker-「角、顔」に遡らせる説が一般的だが、ゲルマン*χrinþazにまで至る派生・発達の過程は不明な点が多い。
恐らく、語根のゼロ階梯形に接尾辞が接続した*kr-ent-os-(私マルピコスの予想!)に由来していると思う(ここからゲルマン語形への発達は
規則的)。問題は*-ent-という接尾辞だが、これはPIEの能動分詞形成接尾辞*-nt-由来なのか、それともスラヴ祖語の動物名・指小中性名詞
形成接尾辞*-ę(語幹*-ęt:語源不明、分詞接尾辞のPIE*-nt-との関係は否定されている)
12と関係が有るのか
どちらなのか良く解らない。或いは、全く別の派生かもしれない。今の所、*-ent-(或いは*-int-かもしれない)の起源に関す識者の見解は
確認できていない。
1 Earls of Morton, Thomas Thomson, Alexander Macdonald "Registrum Honoris de Morton: Ancient charters."(1853)p.3
2 Reaney(1995)p.387
3 Doddingestoneの地名は未詳。現在の英国には存在せず、喪失地名か、或いは現名では別の綴りに転じていると考えられるが、確認出来ない。
Margery de Rotherfordeは家系サイトや文献資料に結構引用されている人物だが、それらの資料を総合するとノーサンバーランドのどこかに
存在した水車小屋(mill)のある場所らしい事だけは分った。
4 Joseph Bain "Calendar of Documents Relating to Scotland. vol.2 (1272-1307)"(1884)p.501
5 脚注1の文献p.91
6 英語語源辞典p.1197、http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_h.html
7 http://quod.lib.umich.edu/cgi/m/mec/med-idx?type=id&id=MED37924
8 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_f.html
9 MED F項 vol.3 p.726
10 古英ford,独Furt「浅瀬」等からゲルマン祖語*furduzが導かれる。この語根母音-u-は次のように説明される。PIEの
抽象名詞形成接尾辞*-tu-はproterokineticタイプの格活用をする。即ち強格形(主格・呼格・対格)は語根é-接尾辞Ø-語尾Ø(Øは母音度ゼロを表わす)の形をとり、
弱格形(上記以外の格で斜格ともいう)は語根Ø-接尾辞é-語尾Øの形をとった。*furduzの語根母音はこの弱格形語幹pr̥t-éw-が
主格形にまで入り込んだ結果生じた。
11 http://www.koeblergerhard.de/idg/idg_k.html
12 http://en.wiktionary.org/wiki/Appendix:Proto-Slavic/-%C4%99
更新履歴:
2014年12月20日 初稿アップ