Robert de Rumenae(1086年Kent:DB)1 Baldwin de Rumeny(1273年Oxfordshire)2 Ralph de Romeney(1279年Oxfordshire)1
英国における姓の分布は古くはかなり偏っており、1881年当時はハートフォードシャー南部の都市セント・オールバンズ
(St Albans)に集住していた。又、ケント州にも見られる。現在はバークシャー州の町スラウ(Slough)に多いが、基本的に
1881年当時の分布が多少拡大されて分布が広がっている。米国ではユタ州に非常に多い姓である。
姓の初出形は同じ『ドゥームズデイ・ブック』に同一人物がRobert de Romenelの形でも記録されており、
この表記はノルマン人によるものとされる(Rumeneaは逆にアングロ=サクソン人による)3。
語源は以下の2つの由来が考えられる。
①地名姓。地名に由来する姓で、英国南東部地方ケント州、シェプウェイ(Shepway)州自治区南部の村ロムニー(Romney)に
由来する。
juxta flumen quod uocatur Rumenea(895年)2, 4 Rumenesea(914年)5
地名の初出形を含む一節はラテン語の憲章(charter)に見え、「Rumeneaと呼ばれる川を通って」の意で本来は川の名前であった。
語尾-eaは古英éa「水、川」6で、英island「島」(原義は「水(に囲まれた)大地」)の第一要素is-も
同じ語から発生している。第一要素に関しては、スウェーデンの英語学者エクヴァル(Bror Oscar Eilert Ekwall)が言って
いる様に語源不明である。彼やハリソンが指摘する所によれば、697年のケントの憲章に見えるruminingsetaという
固有名詞と関係が有るのではないかとしている2, 4。この名前が現れる憲章の前後の原文を以下に
挙げる。
"partem eiusdem ði genetrici beatae mariae similiter in perpetuum possidendam perdono . cuius uocabulum est
ruminingseta . ad pastum uidelicet ouium trecentorum ."7(強調はマルピコス)
では、まずruminingsetaという固有名詞の語源を見てみるみよう。ハリソンの指摘によると、この名の意味は「Rumenの
息子の居住地(the seat (residence) of Rumen's Son)」としている2。どうもこの名前は、語尾の
-setaは古英seta「座るもの」8とみられ、地名というよりもある場所に住んでいる住民の名称で
あるらしい9。古英setaと同根ではあるが、使役形語幹から派生している古高独*sāʒa「居住地」
10であればドイツの地名要素として出現しており11、これと比較
できる。前半のRumining-を人名起源と見る場合、-ingはある名祖の子孫を示す為の語尾である。*Rumenという個人名はサール
(William George Searle)のイングランドの古い個人名辞典には見えないが、論理上有り得る名前で、古英rūm「広い、広々とした、
開けた、十分な、寛大な、気前の良い、自由な、高貴な」12を第一要素に持つ男名(例:Rumbeald,
Rumbearht, Rumweald, Rumwulf等)の愛称形と考えられる(語尾-enは指小辞)(cf.ランコーン(Runcorn))。
地名の祖形は*Romaniacumで17、原義は「Romanusの地所」2, 17である。
Romanusはラテン語の男子名ローマーヌス(Rōmānus)18のことで、帝国の首都ローマ(Rōma)の名に
形容詞を形成する語尾-ānusが接続した名で、「ローマ出身者」を意味する。オー=ラン県にも同名・同語源の地名があるが、
英国にもたらされる蓋然性が低い為、こちらは姓の起源とは考えることは出来ない。
[Harrison(1912-1918)p.121]
1 Reaney(1995)p.382 2 Harrison(1912-1918)p.121 3 http://uk-genealogy.org.uk/england/Kent/towns/Romney.html 4 Ekwall(1928)p.347 5 John Mitchell Kemble編"Codex diplomaticus aevi saxonici."vol.5(1964)p.139 6 Köbler aeW A項p.1 7 John Mitchell Kemble編"Codex diplomaticus aevi saxonici."vol.1(1839)p.54 8 Köbler aeW S項p.50 9 このruminingsetaに"inhabitants of Romney Marsh"、つまり「ロムニー池の住人」の意とする説明による(Joseph Schnetz
編"Zeitschrift für Namenforschung."vol.3(1928)p.202)。同じ造語法による古期英語の固有名詞にHafingseota、Bobingseota
があり、これらもある土地の住人を表す名称かもしれない(前後の文脈を見れば、判るかも知れないが未確認)(Jacob Grimm
"Kleinere schriften: bd. Recensionen und vermischte aufsätze."(1965)p.332)。 10 http://starling.rinet.ru/cgi-bin/response.cgi?single=1&basename=/data/ie/germet&text_number=++1598&root=config 11 例えばバイエルン州の地名アウフゼース(Aufseß)、ノイゼース(Neuseß)等。 12 Köbler aeW R項p.27 この語は英room「部屋」の語源である。本来は形容詞で、「空間」を意味する
名詞用法からこの意が生じた。 13 Pughe(1832)p.490 14 "The influence of the English and Welsh languages upon each other, exhibited in the
vocabularies of the two languages."(1869)p.25 15 ONC(2002)p.1172 16 Nègre(1990)p.1144 17 Beaurepaire(1986)p.184 18 Gaffiot(1934)p.1368
更新履歴:
2011年5月29日 初稿アップ