Proust プルースト/Prost プロスト(仏)
概要
①古仏provos(t),prevo(s)t「プレヴォ、地方行政官」に由来。
②古仏preu,prou(s),proz「思慮深い、勇敢な」に由来。
詳細
Proustはフランス西部に集住。Prostは東部に集住。前者は1891~1915年の記録では全国1453件のうち、ドゥー=セーヴル県419件、その東隣のヴィエンヌ県 156件、その北東隣のアンドル=エ=ロワール県112件と言う分布である。約半数がこの三県に分布している訳である。 後者は同記録では全国1844件のうち、サオーヌ=エ=ロワール県606件、その東隣のジュラ県341件、その南のアン県195件やローヌ県147件という 内訳で、ほぼ7割がこの狭い地域に集中している。前者の姓を持つ有名人に、フランスの作家 ヴァランタン=ルイ=ジョルジュ=ウジェーヌ=マルセル・プルースト(Valentin-Louis-Georges-Eugène-Marcel Proust:1871.7.10 Paris~1922.11.18 同地) 、後者にフランスのF1レーサー、アラン・プロスト(Alain Marie Pascal Prost:1955.2.24 Lrette(ロワール県)~)がいる。 アラン・プロストはProst姓の集住地の外縁部の出身。語源は二系統ある。

Jehan le Proost(1300年Dendermonde(ベルギー、オースト=フランデレン州))1
Paridaen le Proost(1300年Ninove(ベルギー、オースト=フランデレン州))2
Willemet Prouost(1302年Gent(ベルギー、オースト=フランデレン州))3
demisielle Marie Le Prevoste(1375年Lille(ノール県))4
Walleran Le Prevost(1497年Lille)5
Proust, Colas, de la Raslére(1528年Apremont(ヴァンデー県Challans))6
Gacian Proust(1546年Tours(アンドル=エ=ロワール県))7
Jehan, filz de Hubert Prouost(1591年London(英):ユグノー)8
Jehanne Prouste(1594年Éguilly(ウール=エ=ロワール県Saint-Avit-les-Guespières))9

①職業姓、ニックネーム姓。古仏provos(t),prevo(s)t「プレヴォ、地方行政官、代官」10(>仏prévôt)に由来する。プレヴォとは 中世のカペー朝中期以降フランス国王が各地の要所を支配・統治する為に、王の代わりに配置、職務を遂行した地方行政官の事である。 プレヴォの文献上の初出は1019年で、国王証書では1057年に初見。プレヴォは12世紀前半には30人ほど居たが、13世紀初頭には62人に 倍増した。又、プレヴォ職は最初世襲制であったが、後に任期付きの請負制に移行し、管轄区も設定されるようになった。彼等は 徴税や裁判などの職務を執り行っていたが、次第に職権を乱用するようになる。これに対し危惧を抱いた カペー朝第七代君主のフィリップ2世(Philippe II:在位1180~1223年)は、王権の強化を目的とした 行政改革を行い、その一環としてバイイ(古仏baillif,仏bailli,中ラballivus:cf.英姓ベイリス(Bayliss))という地方行政官を新設し、プレヴォをその 監督・支配下に置いた(1180~1190年)。この為、裁判職など元来のプレヴォの職権がバイイによって浸食されていき、プレヴォの 力は弱まった。力関係としては江戸時代の日本で言えば、バイイ=奉行→(支配)→プレヴォ=代官という感じだろうか。 プレヴォ職については青山学院大学の 渡辺節夫教授(フランス中世史が専門)の論文『カペー朝期フランスにおける地方統治とプレヴォ・バイイ制』に詳しい(上記の説明も当論文に負っている)。

姓としては先祖がプレヴォ職に有ったか、或いは中世野外劇で専属でプレヴォ役を演じた者が名乗り出した、代官の様に偉そうに振舞っている 人間を例えた渾名など、由縁としては様々な可能性が考えられる。他にも、Pro(u)vost, Prouvot, Proo(s)t, Provo, Provo(s)t, Provoost, Pruvost, Pruvot, Provos(te), Prévôt, Prévo(u)st, Prevos(t), Prout, Préost, Privot, Provou, Prouvosq, Pervost, Leprévo(s)t, Leproust等、 やたら異形の多い姓である。

[Morlet(1997)p.813, Germain et Herbillon(2007)p.835, Mergnac(2000)p.385, Cellard(1983)pp.224f., Larchey(1880)p.392]
②ニックネーム姓。古仏preu,prou(s),proz「思慮深い、勇敢な」11(>仏preux「勇気のある」)に由来。エヴェイエ (Marie André Arthur Éveillé)編著のフランス語サントンジュ方言語彙集にProust姓も掲載されており、仏preu(s),pros,prus「思慮深い、慎重な(sage, prudent)」に由来し、ブルターニュ低地ではprewsというとある12。cf.プルードン(Proudhon)
[Morlet(1997)p.810, Germain et Herbillon(2007)p.833, Mergnac(2000)p.385, Larchey(1880)p.392, ONC(2002)p.503]
◆古仏provos(t),prevo(s)t「プレヴォ」←中ラprōpositus「長官」(英provost「聖堂参事会長、長官、学長」,独Propst「司教座聖堂首席司祭」) ←ラpraepositus「指揮官、隊長、長官」(本来は過去分詞)←praepōnere「前に置く、指揮させる、優先する」←prae-「~の前に」 (←PIE*prai-,*prei-(拡張形)←*per-「前に」)+pōnere「置く」←*pos(i)nere「~の上に置く」←*po-「~の上に」(←PIE*po-(変形)← *apo-「~から離れて」)+sinere「放って置く、残す、置く」←PIE*s-n̥-ə-(ゼロ階梯+動詞現在形形成接中辞)←*sē(i)- 「種を蒔く」13

仏Wiktionaryでは、動詞語根*sē(i)-「種を蒔く」に 「投げる、落とす、蒔く、残す」の語義を設定している。sinere「放って置く」の過去分詞situs(ここから英site「サイト」が生じた)等の他の 活用形から判断すると、sinereの-n-が印欧祖語の鼻音現在に由来していると見る解釈は妥当だと思う。 語根*sē(i)-の祖形は*seə1-と想定されており、これに鼻音接中辞が挿入された形*s-n̥-ə-からラsinereへの発達は 規則的(この接中辞は動詞語根のゼロ階梯形に挿入される)。一方、英語語源辞典やワトキンズ本ではsinere「放って置く」の語源は不明としている。確かに意味の発達の面で若干疑問を感じるが、 形態的には問題無いので上掲説に従った。

◆古仏preu,prou(s),proz,prod(e),prud「思慮深い、勇敢な」←後ラprōde「役に立つ、有益な」(逆成)←ラprōdesse(一人称単数現在prōsum) ≪動詞≫「役立つ、有益である」←prō「~の前に、~の為に、~に対して」(←PIE*per-「前に」)+esse「存在する」←PIE*es-「存在する」 14
不定詞形のラprōdesse中に見える不可解な-d-は、ラre-「逆方向へ」という接頭辞が母音から始まる語に接続した場合、ラredīre「戻る」 (←ラīre「行く、来る」)の様に-d-が出現するので、この影響による類推だと説明されている15
1 M. Gachard "Analectes historiques, par m. Gachard."(1856)p.119
2 ibid. p.124
3 Louis Gilliodts-Van Severen,Edward Gailliard "Inventaire des chartes: 1871-1876."(1871)p.105
4 Société d'études de la province de Cambrai "Mémoires de la Société d'études de la province de Cambrai. vol.2"(1894)p.783
5 ibid. p.1085
6 "Annuaire de la Vendée. vol.6 part.1"(1876)p.179
7 "Mémoires de la Société archéologique de Touraine. vol.20"(1870)p.68
8 "Publications of the Huguenot Society of London."(1891)p.21
9 M. L. Merlet "Inventaire - sommaire des archives départementales. Eure-et-Loir. vol.5"(1882)p.102
10 Hilaire Van Daele "Petit dictionnaire de l'ancien français."(1940)p.375
11 Godefroy(1880-1895)vol.6 p.398
12 Marie André Arthur Éveillé "Glossaire saintongeais; étude sur la signification, l'origine et l'historique des mots et des noms usités dans les deux Charentes."(1887)p.308
13 英語語源辞典p.1123
14 英語語源辞典p.1122
15 http://www.etymonline.com/index.php?term=proud

更新履歴:
2016年4月10日  初稿アップ
PIE語根①Pro-(u)-s-t: 1.*per-¹「~の前に(へ)、~の近くに、~に」; 2.*upo「~の下に、下から上へ、~の上に」; 3.(?)*sē(i)-¹「種を蒔く」; 4.*-to- 分詞・形容詞・名詞形成接尾辞
Pro(u)-st: 1.*per-¹「~の前に(へ)、~の近くに、~に」; 2.*es-「~である」

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