Pestalozzi ペスタロッチ(伊)
概要
伊pestare「押しつぶす、踏みつける」と伊≪北部方言≫lozza,lozzo「泥」,≪ヴァルテッリーナ方言、スイス方言≫「堆肥」より成り立ち、「泥踏み、肥踏み」の意。
詳細
Gubertus Pestaloza de Grabadona(1299年Chiavenna(ロンバルディーア州))1
Anthonius Pestalozza(1383年Chiavenna)2
Andreas Pestaloza(1486年Chiavenna)3
Joannes Petrus de Pestalotijs(1525年Chiavenna)2
Abondio Pestaloza(1567年Chiavenna)4
Cornelia Faustina Pestaluz(1631年Glion(スイス、ヴォー州))2
Elssbetha Pestalutzin(1643年Zürich)5

ニックネーム姓。北イタリアのロンバルディーア州で昔からよく見られる姓である。スイスの教育家ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッツィ(ペスタロッチ) (Johann Heinrich Pestalozzi:1746.1.12 Zürich~1827.2.17 Brugg(スイス、アールガウ州))の家系はロンバルディーア州ソンドリオ県のコムーネ、キアヴェンナ(Chiavenna)発祥。 先祖が16世紀にチューリヒに移住し、スイスに根付いた(ドイツ語化したPestalutzという姓も19世紀にスイスで見られたが、現在は廃用の様である)。 この姓は動詞+目的語から形成されている成句に由来する。伊pestare「打ち砕く、押しつぶす、踏みつける」と伊≪北部方言≫lozza,lozzo「泥(fango)」 6,≪ヴァルテッリーナ方言、スイス方言≫「堆肥、家畜の糞(Stallmist)」7より構成され、文字通りには 「泥踏み、肥踏み」を意味している。即ち、「湿地帯の住人」(ルラーティ説)、或いは「農民」(コールハイム説)を現わす。

一方、比較的古い資料では「肉屋」を意味する説が採用されている。これは、第二要素を伊osso「骨」(←ラos(語幹oss-)「骨」)の方言形と解釈するもので、即ち全体で 「骨砕き」と逐語訳される8。確かにロンバルディーア方言に冠詞が融合したl'òss「骨」なる語はある。然し、歯茎摩擦音の[s]がより 発音労力の要る歯茎破擦音[ts]に変化する筈が無く、その様な例もイタリア語では見られないので、*l'òssoから*lòzzoに変化するシナリオは苦しい。誤りとみて 良い。

余談だが、この苗字の第一要素は英piston「ピストン」と同根。
[Lurati(2000)p.372,Kohlheim(2000)p.499]
◆伊pestare「打ち砕く、押しつぶす、踏みつける」←後ラpistāre「突き砕く、連打する」(連複形)(プロヴァンスpestar, 西pistar,ルーマニアpisà)←ラpīnsere「突き砕く、連打する」(仏piser)←PIE*peis-「押しつぶす」(ギptíssein「押しつぶす」,サンスクリットpináṣṭi ≪3単現≫「押しつぶす」)9

◆伊≪北部方言≫lozza,lozzo「泥」←ラlutum(o語幹中性名詞)「泥、汚物、粘土」(仏lut「封泥」,西lodo「泥、汚物、ぬかるみ」,カタルーニャllot「泥」,葡lodo 「ヘドロ、軟泥、泥、沈泥」,ルーマニアlut「粘土」)←PIE*lu-to-m(ゼロ階梯+名詞・形容詞形成接尾辞+中性名詞主格語尾) ←*leu-「汚い;汚くする」(ギlûma「汚物」,古アイルランドloth「泥、ゴミ」,リトアニアlutynas「溜池、水たまり」)10
ラlutum→伊lozza,lozzoの変化は音韻的に厳しい。実際、ラlutumの後裔である伊≪ナポリ方言≫lota,≪アブルッツォ方言、バーリ方言、スポレート方言≫lote ,≪プッリャ方言≫lòute(いずれも「泥」の意)で、いずれも-t-を持つ。もしかしたら派生形*lutiumからの発達かもしれない(私の勝手な提案)。或いは、独≪アレマン方言≫ motz「ゴミ、泥、ぬかるみ」(cf.モーツァルト(Mozart))の影響による変形か、はたまた混淆の可能性も考慮すべきかもしれない(これも私の考え)。英Wiktionaryでは、ラlutumを 英lavender「ラベンダー」やlaundry「洗濯屋」の語源であるラlavāre「洗う」と共にPIE*leu(ə)-「洗う」(cogn.英lye「灰汁」)に遡らせる説を採っている。 然し、全く意味が逆になっており、ラlutum「泥」はラluere「汚い」という動詞との関係性も明白なので、いくらなんでもあり得ないと判断した。従来説に従った。
1 Hans Friedrich von Ehrenkrook "Genealogisches Handbuch der adeligen Häuser. vol.23"(2000)p.282
2 Konrad Huber "Rätisches Namenbuch. vol.3"(1986)p.678
3 Ulrici Campelli "Quellen zur Schweizer Geschichte. vol.8 Historia Raetica. vol.1"(1887)p.599
4 Wymann Eduard "Der Geschichtsfreund. vol.54"(1899)p.127
5 "Catalog der Stadtbibliothek in Zürich:vol.3 L - R"(1864)p.24
6 Lurati(2000)p.372
7 Kohlheim(2000)p.499
8 Bahlow(2002)p.367、ONC(2002)p.486f.、Fucilla(1949)p.59
9 英語語源辞典p.1072
10 英語語源辞典p.1087

執筆記録:
2014年5月30日  初稿アップ
PIE語根Pes-t-a-lo-zz-i: 1.*peis-¹「押しつぶす」; 2.*-to- 形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*-ā-³ 動詞形成接尾辞; 4.*leu-²「ゴミ;汚くする」; 4.*-to- 形容詞・名詞形成接尾辞; 5.*-(o)i 強意・現在・複数を表す語尾

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