｢*Mira(人名：←ゴート*mēreis｢大きい｣)の子｣を意味する父称姓。

Arnaldus Mironis(1089年Barcelona)¹
Petrus Mironis de Malmercad(1115年Pallars Sobirà(カタルーニャ州リェイザ県))²

父称姓。カタルーニャ語圏全域。特にバルセロナ県に多い。スペインのシュルレアリスムの画家ジョアン・ミロ(Joan Miró：1893.4.20～1983.12.25) もバルセロナの生まれである。ゴート*mēreis｢大きい｣³(←ゲルマン*mērjaz,*mǣrjaz｢卓越した、名高い、素晴しい｣ ³)を語源とする、古いカタルーニャの男名*Miraの斜格形(主格以外の格形)Mirone(881年に記録がある)からの発達。 第一音節の母音がiに変わっているのは、ゲルマン祖語の正確な音価が不明な母音ǣを反映しているのではないかと思う(私の勝手な想像だが)。 ドイツの言語学者クラーエ(Hans Krahe)によれば、この母音は長母音のīであったのではないかと指摘している⁴。 同じ音変化が、仏姓ミッテラン(Mitterrand)の第一要素にも見られる。ミッテラン姓はゲルマン語の男子名に由来するとみるのが最も 適当な解釈と思われるが、その説にのっとった場合、第一要素は古い個人名要素として一般的に用いられていたゲルマン*mēþiz,*mǣþiz｢度量法、 尺度、誉れ｣に由来している(詳しくはミッテランの項参照のこと)。西部のラテン語圏では、ゲルマンǣ(＝(?)ī)がiとして根付いたのかもしれない。 斜格形で語尾にnが現れるこの格変化は、弱変化と呼ばれるタイプで、現代ドイツ語の 弱変化男性名詞はその後進である。この変化タイプの名詞は、古いゲルマン語では一般的なものであったため、ゴート人の言葉がラテン語化するに 当たり、この屈折方式まるごとラテン語に取り込まれたのであった。上掲の姓の古形欄に示した２例のMironisという形は属格形だが、ラテン語に模された 形で、実際の民衆の間で用いられた形ではないと思われる。実際の民衆語では*Mironの様な形で｢*Miraの(子)｣を表現していたものを、公文書で記録する ラテン語で表記する時に、ラテン語の子音語幹名詞と判断し、その属格語尾-isを更に付け加えたものだろう。ミロン(Mirón)姓は、そのゲルマン語の 斜格語尾が残った形によるもので、ガリシアやエストレマドゥラ、アンダルシア全域に分布する。ミロ(Miró)姓はこの語尾が脱落して生じた。

同語源の他の姓も、カタルーニャに多く分布する。ミル(Mir)姓はカタルーニャ全域に分布するが、特にバレアレス諸島自治州とバルセロナ県に多く、 上掲のゴート語個人名のラテン語化した主格形Mirusからの発達。ミラ(Mira)姓はバレンシア州に多く見られ、特にアリカンテ(Alicante)県に 集住するが、こちらはゴート語の主格形からの発達と見られる。また、カタルーニャに多いミレト(Miret)姓は、男名Mirusの民衆語形*Mirの 指小形からの発達ではないかと思われる。

所で、この姓の原義をラテン語で｢兵士｣とする説⁵が存在するが、これは恐らくラmīles｢兵士｣(英military｢軍隊の｣はその派生語)を根拠と するものと思われる。然し、姓・個人名の古形と語形・屈折の仕方に矛盾が生じるため、明らかに誤りである。
[Tibón(1988)p.158,Faure et al.(2009)p.519-520,ONC(2002)p.432,San Martín(2006)p.,Elián(2001)p.,Alcántara(2004)p.129]

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¹ Jerónimo Pujades "Cronica universal del principado de Cataluña."(1832)p.81
² Ignasi M. Puig i Ferreté "El monestir de Santa Maria de Gerri: (segles XI-XV). vol.2"(1991)p.75
³ Köbler idgW M項p.18
⁴ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%B3%E7%A5%96%E8%AA%9E、 http://en.wikipedia.org/wiki/Proto-Germanic_language
⁵ 辻原(2005)p.98

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執筆記録:
2011年10月3日　　初稿アップ