Jean Mérimez(1665年Le Noyer-en-Ouche(ウール県))
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地名姓?。1891~1915年の調査では25件のMérimée姓の内、半数の12件がウール県に分布し突出している。特に同県西部の
サン=ヴィクトル・ド・クレティアンヴィル
(Saint Victor de Chrétienville)に多い。同源異綴の姓にメリメ(
Mérimé)があるが、極めて珍しい。Mérimé姓はフランス北端の
パ=ド=カレー県にも見られるが、中北西部のアンドル=エ=ロワール県に集住地が存在し、Mérimée姓も同県に集住地が有る。分家筋か?。
フランスの作家プロスペル・メリメ(Prosper Mérimée:1803.9.28 Paris~1870.9.23 Cannes(アルプ=マリティム県))が有名。
この苗字は語源が明らかでない。フランスの言語学者モルレ(Marie-Thérèse Morlet)によれば耕地名に由来するとし、後半要素-méeは古仏me(i)s,
mez,me(i)x,maix,miex,mietz,mas「農家の邸宅、農場、農園、住居、邸宅」
2(←ラmansus:英mansion「マンション」は
その派生語),中仏mais,me(t)s「住居、邸宅」
3に由来するとみている(cf.仏語地名Cordemais、Morialmé)。第一要素の
Méri-はゲルマン人の個人名Meriに由来すると想定しており、更にその名はAymericの短縮形とする
4。Aymericは
古高独Haimirich
5という男名に対応し、ゲルマン*haimaz「家、村、世界」
6とゲルマン*
rīks「王」
7より構成されている。又、フランス家系サイトの
Geneanetによれば、モルレが挙げる候補以外にMédéricなるゲルマン人の男名も挙げる。この名は西暦500年に
イタリア北部のミラノ近郊のリモンタ(Limonta)でMadericusというラテン語化形で記録に見え
8(恐らく古高独諸語の
ランゴバルト語の名前だろう)、その第一要素はゲルマン*maþlam「助言、集会、演説」
9(>独Gemahl「御主人」)の
短縮形を語源としている(第二要素はゲルマン*rīks「王」)。又、私の解釈だが、ゲルマン*mǣrjaz「卓越した、偉大な、名高い」
9(cf.
ミロ(Miró)
)を第一要素に持つ男名の短縮形から生じた古高独Maro
10のフランク語相当名の
属格形に由来している可能性も十分有り得る(格語尾の-nは後続の古仏me(i)sの語頭子音m-と同化したか、脱落したもの(フランス語の地名では
しばしば見られる)と説明できる)。
このモルレの地名由来説は、上掲の1665年のMérimezという綴りで有る程度は補強されている。然し、その候補に成り得る地名は過去にも現在にも
全く記録に無い。しかも、1665年よりも古い本姓の記録が確認出来ず、フランスの古い地名姓に現われる前置詞deを持つ形も確かめられないので
、本当に地名に因むかどうかは良く解らない。事によると、本姓の祖形はモルレ説を支持しない想像とは違った形かもしれない。取り敢えず、
現時点で知られている状況証拠からはモルレの解釈が最も的確・無難なので、彼女の説に従う。
尚、先の家系サイトGeneanetの記事によると、ジャンロワ(A. Jeanroy)なる人物が、英語のmerry maid「陽気な少女」を本姓の語源とする説を
提示したが、フランスの言語学者ドザ(Albert Dauzat)による先見の明有る指摘によって容赦なく退けられたと書かれている。ジャンロワとは
フランスの言語学者の
アルフレッド・ジャンロワ(Alfred Jeanroy)
の事だろう。聞いての通り駄洒落と見紛うお粗末な説である。100年位前の固有名詞の語源説には、こうした他愛の無い
ものもしばしば提出されていた。
[Morlet(1997)p.1013]
1 "Annuaire des Cinq Departements de la Normandie. vol.64"(1897)p.389
2 Godefroy(1880-1895)vol.5 p.264
3 http://www.cnrtl.fr/definition/dmf/mais3?idf=dmfXhgYrmXart.revusYmXdf;str=0
4 Morlet(1997)p.1013
5 Förstemann(1966)sp.591
6 http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_h.html
7 http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_r.html
8 M. B. Guérard "Polyptyque de l'abbé Irminon, ou, Dénombrement des manses, des serfs et des revenus de l'abbaye de
Saint-Germain-des-Prés. vol.2"(1844)p.344
9 http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_m.html
10 Förstemann(1966)sp.908
更新履歴:
2016年3月22日 初稿アップ