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Maupassant モーパッサン(仏)
概要
古仏malpas,maupas「悪い歩み、困難な通行」から派生した動詞の現在分詞か、古仏mal「悪い」+古仏passer「通る」の現在分詞よりなり、 「悪路」を意味する地形に因む姓。
詳細
Robert Maulpassant(1572年Aubréville(ムーズ県):鍛冶屋)1
Charles Maupassant(1626年Verdun(ムーズ県))2
Claude Maupassant(1631年Ligny-en-Barrois(ムーズ県))3
Pierre Maupassant(1633年Verdun)4

地名姓、居住地姓。フランスの北部ムーズ県発祥。現在は仏中北東部コート=ドール(Côte d'Or)県に多いが、1891-1915年の統計では全国6件のモーパッサン姓が 全てムーズ県での記録であるように、20世紀前半に徐々に集住地が移った。フランスの作家、詩人アンリ・ルネ・アルベール・ギ・ド・モーパッサン (Henri René Albert Guy de Maupassant:1850.8.5 Miromesnil城(セーヌ=マリティム県ディエップ郡)~1893.7.6 Paris)の姓と知られる。彼は、現在の 集住地や姓の発祥地とはかけ離れたセーヌ=マリティム県の出である。父親のギュスターヴ(Gustave de M.)はノルマンディーのウール県ベルネ(Bernay) に1821年11月28日に生まれた5。更に先祖を遡ってみると以下の様になる5, 6

Jules de Maupassant(1795~1865)

Louis François de Maupassant(1767~)

Louis Camille de Maupassant(1734.4.10 Paris~1807.10.18 同地)

Jean Baptiste de Maupassant(1699.12.13 Varennes-en-Argonne(ムーズ県)~1774)

Thierry Maupassant(1655~)出生地は不明だが、ムーズ県のヴォーコワ(Vauquois)でマルゲリト・ラベル(Marguerite Labell)という女性と1692年に 結婚。又、詳細な位置は不明だが同県ヴァランヌ=アン=クレルモントワ(Varennes-en-Clermontois)で代理人・公証人(procureur, notaire)として 記録に現れているらしい。

Jean Maupassant(1640~)

François Maupassant(1610~)
これ以上は遡れない。とりあえず、この有名な作家の家系もムーズ県に所縁を持っていることが判る。

語源は古仏malpas,maupas「悪い歩み、困難な通行(mauvais pas, passage difficile)」7と関連する。この名詞から作られた動詞*malpasser, *maupasserの現在分詞に由来していると思われる(マルピコス説)。動詞*malpasserの意味は「困難を伴いながら歩く」か。或いは、古仏passer「通る」の 現在分詞passantに古仏mal(e)「悪い」が修飾した形に由来しているかもしれない。名詞の古仏malpas,maupasに 由来する地名はフランス各地にある。例えば、マルパス(Malpas)はフランシュ=コンテ地方のドゥー(Doubs)県、オーヴェルニュ地方のオート=ロワール 県、南部ミディ=ピレネー地方のオート=ガロンヌ県に各1件存し、モーパス(Maupas)もフランス各地に5ヶ所存在している。これらは、 「歩きにくい場所」の様な意味で名付けられた地名であろう。Maupassantという地名そのものは現存しないが、この姓は喪失地名か居住地の地形に 因んだもので、「悪路」を原義とすると解せられる。尚、仏malpasser「間違えて記録する(irrig eintragen)」8という同じ要素構成の同源の 動詞があるが、Maupassant姓との直接の関係は無いだろう。
[Morlet(1997)p.652,Tosti(1997~)m4,ONC(2002)p.399]
◆(古)仏passer「通る」(現在分詞形:(古)仏passant)←俗ラ*passāre「歩む、歩く、通る」(伊passare「通る、越える」,西pasar「通る」)←ラpassus「歩み」 (原義「拡張」)(pandere「伸ばす」の過去分詞)←PIE*pat-to-(ゼロ階梯(?)+完了分詞形成接尾辞)←*petə-「広げる」9。 印欧祖語で、tが連続するとき、その間に-s-が挿入され-tst-の形となる。これが更にラテン語では-ss-に変化した(PIE*pat-to-→*pat-s-to- →ラpassu-)。一方、不定詞pandereは動詞語根に他動詞の現在形を作る接中辞-n-が加えられた形に由来している。
1 Alfred Weyhmann "Geschichte der älteren lothringischen eisenindustrie."(1905)p.93
2 "Mémoires de la Société d'archéologie lorraine. vol.59"(1909)p.204
3 "Revue des sociétés savantes de Haute-Normandie."(1960)p.94
4 脚注2の文献p.182
5 http://gw4.geneanet.org/pierfit?lang=fr;p=gustave;n=de+maupassant 又、リンク先の先祖の記事も参照。
6 http://www.iagiforum.info/viewtopic.php?f=1&t=837&start=15
7 Godefroy(1880-1902)vol.5 p.126
8 Adolphe Peschier, Dominique Joseph Mozin "Vollständiges Wörterbuch der deutschen und französischen Sprache. vol.3"(1873)p.1004 この動詞はかなりマニアックなものらしく、ロベール仏和大辞典にも見えない。死語か。
9 英語語源辞典p.1020、p.1036、Watkins(2000)p.67、Pokorny(1959)p.824-825

執筆記録:
2011年12月2日  初稿アップ
PIE語根Mau-pas-s-ant:1.*mel-「誤った、悪い」;2.*petə-「広げる」;3.*-to- 完了分詞形成接尾辞;4.*-nt- 能動分詞形成接尾辞

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