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Marat マラー(仏)
概要
①居住地姓、地名姓で、「池(近くの住人)、湿地(近くの住人)」の意。
②ピュイ=ド=ドーム県にある地名マラー(Marat)(原義は「Macero(人名:「瘦せた」の意)の地所」)に由来。
③サルデーニャmara「石ころだらけの土地、未開墾の土地」に由来するサルデーニャ島の地名マーラ(Mara)より。
詳細
Willelmo de Mara(1190年Bernay(ウール県))1
Guillaume Marat(1520年Paris)2
Barthélémy Marat(1678年Noyers(仏中部ヨンヌ県):測量士)3

①居住地姓、地名姓。フランス北端部に多く、1891~1915年の統計調査では、フランス全土のMarat姓を名乗る人物59件のうち、ソンム県に20件、エーヌ県に 13件、ノール県9件とピカルディー地方に集住していることがわかる。恐らく、同じ様な分布を持つマラ(Mara)姓の異綴。Mara姓は、1891~1915年の 統計調査では、全国86件のうち、エーヌ県19件、ノール県6件で上位2、3位に食い込んでいる(1位はレユニオン島(53件)なので、恐らくアフリカ系や マダガスカル系の非印欧語由来の名と思われる)。年代的に見るとMara姓の出現の方が古く、Marat姓は後に綴りだけ変えて分化した家系ではないかと 私は思う。恐らく仏mare「沼、池」と関連し、「池近くの住人、湿地帯の住人」を意味する姓。或いは、同源の消失地名に由来すると思われる。上記の如く 、ノルマンディーで12世紀に"de Mara"という前置詞を伴う形で姓が記録されているので、この可能性は高いと思う。
[Tosti(1997~)m2]
②地名姓。所で、モルレ(Marie-Thérèse Morlet))によれば、Marat姓は仏中部オーヴェルニュ地方、ピュイ=ド=ドーム県アンベール(Ambert)郡オリエルグ (Olliergues)小郡にあるマラー(Marat)村の地名に由来すると唱えている。然し、この周辺では当姓が殆ど分布していないことから、あまり説得力のある 説とは言い難いかも知れない。一応、以下に地名の歴史上の変遷を列挙する。
Mazarat(1247年)4
Mazaraci(1272年)4
Maharat(1291年)4
Maarac(1294年)4
Maarat(1317年)4
Mazerac(1319年)4
Marat(1343年)4
ネグルはMacero(<Macer)というラテン語の個人名に因む-iacum地名とする4。人名は明らかにラmacer「瘦せた」 5に由来する渾名起源の名である(マルピコス説)。従って、地名の原義は「Macero(人名:「瘦せた」の意)の地所」。 因みに地名の古形の語尾が-acになってたり、-atに成ってたりするが、これらは別々の起源を持つ接尾辞で、フランスやイタリアの-(i)acum地名では 、この入れ替わりが歴史上しばしば見られる(両接尾辞とも、ケルト語に由来する)。cf.メグレ(Maigret)
[Morlet(1997)p.660,TTosti(1997~)m2]
③地名姓。フランスの革命家マラー(Jean-Paul Marat)の姓は又別語源である(但し①と語源上関連)。彼はスイスのヌーシャテルで画家・版画家のジャン=バティスト・マラー (Jean-Baptiste Marat)の子として1743年に生まれた。父ジャン=バティストは出生時の姓をマーラ(Mara)といい、1704年サルデーニャ島南部の 町カッリャリ(Cagliari)でアントーニオ・マーラ(Antonio Mara)の息子として生まれた。ジャン=バティストは元、カプチン修道会の信者であったが、理想を求めて ジュネーヴに移住し同会を脱会、カルヴァン派に改宗した。そしてフランス語とデッサンを学び、姓もフランス語風にマラー(Marat)に改名した 6

Mara姓はイタリアではサルデーニャ島(特に北部のサッサリ(Sassari)市)とロンバルディーア州西部に多い。両者はそれぞれの地方にあるマーラ (Mara)という地名に各々由来している。ここでは、前者の地名だけ取り上げる。即ち、革命家マラーの姓はサルデーニャ州北部サッサリ県、ボーサ(Bosa)とマコメル(Macomer)、イッティーリ (Ittiri)の間にある村マーラ(Mara)の名に由来する姓である。地名はサルデーニャ語のmara「石ころだらけの土地、未開墾の土地(terra a sassi, incolta)」7(<中ラmaretum「沼沢地(locus palustris)」8)に由来7
[Tosti(1997~)m2,Rossoni(2000)map項]
1 Charles Homer Haskins "Norman Institutions."(2007)p.336
2 Philippe Le Bas "France: Dictionnaire Encyclopédique. vol.7"(1842)p.530
3 "Bulletin de la Société des sciences historiques et naturelles de l'Yonne. vol.50"(1896)p.44
4 Nègre(1990)p.448
5 研究社羅和辞典p.377
6 http://fr.wikipedia.org/wiki/Jean-Baptiste_Marat、Charlotte Goëtz "Marat en famille. La saga des Mara(t). vol.1"(2001)p.4
7 Polloni(1966)p.186
8 Du Cange vol.5 p.278

執筆記録:
2011年11月13日  初稿アップ
PIE語根①Marat:1.*mori-「湖、池」
②Ma-r-at:1.*māk-「長い、細い」;2.*-ro- 形容詞・名詞形成接尾辞;3.語根未調査
③Marat:1.*mori-「湖、池」

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