Magath マガト(独)
概要
古いドイツ人男名*Magihart(「力、強さ;力強い」+「強い、固い、厳しい」の意)のスロヴァキア・ハンガリー語転訛形に由来。
詳細
Johannes Maget(1578年Waldshut(バーデン=ヴュルテンベルク州))1, 2Joannus Magatt(1580年Waldshut) 1, 2Johannes Magatt(1583年Waldshut)1, 2Johannes Magett(1584年Waldshut) 1, 2
Michael Magath(1663年Hlohovec(スロヴァキア、トルナヴァ県))3
Emerici Magath(1685年Kuklov(スロヴァキア、トルナヴァ県))3Emerici Magathy(1687年Kuklov)3
Dorothea Sabina Mageth(1669年Schweigern(バーデン=ヴュルテンベルク州))4
Paulo Magath(1725年Püspökhatvan(ハンガリー、ペシュト県))5
Josephus Magath(1730年Nagymaros(ハンガリー、ペシュト県))5
Andreas Mageth (1753年Jelšovce(スロヴァキア、ニトラ県))4
Joanes Magáth(1826年Ochodnica(スロヴァキア、ジリナ県))5
Alexdria Magetis(1896年、リトアニアのどこか)4

父称姓。ドイツのサッカー選手、サッカー指導者ヴォルフガング=フェーリックス・マガト(Wolfgang-Felix Magath:1953.7.26 Aschaffenburg(バイエルン州)~)の 姓として知られる。ドイツ南端のバイエルン州ミースバッハ(Miesbach)郡や独中南西部バイエルン州のアシャッフェンブルク市、ドイツ北部のリューベック市 などに多く、奇妙なばらつきを伴った不可思議な分布を持つ。1942年の記録では、現ポーランド北西部西ポモージェ県の都市コシャリン(Koszalin)や 独北西部の都市ヴィルヘルムスハーフェン(Wilhelmshaven)に多く、現在の分布とは異なる。 17世紀以降のスロヴァキア南部、18~19世紀にはハンガリー北部での使用例が多く見つかる。19世紀にはロシアやポーランドでの記録も多い。

又、昔はプロイセン各地に本姓と似た苗字が散在していた。ドイツの家系サイトでは、以下のような姓が挙げられている(年代は不明)。
ナイセ(Neisse:現ポーランドNysa(オポーレ県)):Machate6
フィッシュハウゼン(Fischhausen:現露Primorsk(カリーニングラード州)):Macheit、Magat、Magath、Magatzki、Mogat、Mogath7
ホルトラウケン(Hortlauken:現露カリーニングラード州Kumačëvo内):Magath、Mogath8
ポヴンデン(Powunden:現露Xrabrovo(カリーニングラード州)):Machait、Macheit、Magat、Magath、Mageth、Mogath9

上述のように、初出と見られる形がドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州南端のヴァルツフートで16世紀末に見出されるが、現在この地に 似た綴りも含め本姓は分布していない。断絶したか移住したものと思われる。今のドイツに分布するMagath姓は分布地に特定の傾向が見られないため、恐らく第二次世界大戦とその終戦時の 混乱によって東欧からもたらされた可能性が高い。その東欧での早い用例はスロヴァキアにおけるものだが、これが次第にハンガリーや プロイセンといった近隣諸国にも分布が広がったものと考えられる。

姓は、古いドイツ人男名マギハルト(*Magihart:但し未文証)10に由来する。この男名の第2要素は、古高独hart「強い、 固い、しっかりした、堅固な、厳しい、鋭い、辛い」11,古ザクセンhard「固い、重い、鋭い、悪い、勇敢な、強い」 12。第一要素については、古高独*mag「力強い」13、或いはその名詞形である古高独megin, mekin,*magan「力、強さ」13(>中高独magen,mān,main「力、権力、量」13),古ザクセンmėgin 「力、強さ、大衆」14の第二音節が失われた略形・弱化形、或いはその動詞形である古高独magan,古ザクセン*magan ≪過去現在動詞≫「~出来る」13, 14(英may「~かもしれない、~出来る」と同語源)の語幹に由来する。古高独māg「親戚、 血縁者」13由来説もあるが、どれにしても印欧祖語の動詞語根*magh-「~出来る、力がある」に遡る。*Magihartの中程に 見える-i-はi語幹名詞の語幹形成母音から転用された連結辞で、独Nachtigall「ナイチンゲール」も同様の理屈で形成されている。この様に本来の 語幹とは異なった語幹接尾辞-i-による造語法は、ラテン語では一般的なため、ラテン語の影響から生じた部分も有ったのではないかと思われる (マルピコスの勝手な考え)。

公判要素が同語源であるドイツ語の男子名ベルンハルト(Bernhard:「熊+強い、固い」の意)は、ハンガリー語(マジャール語)でベルナート(Bernát(h)) 15に、スロヴァキア語でベルナート(Bernát)16に変化している。マガト姓も*Magihart→*Mag(h)art→ Magát(h)と変化して生じたものと想定される。第二要素部分の-r-は弱化して直前の母音aを長音化し、自身は消失したのだろう(代償延長)。過去の姓の分布地域とも 矛盾がないので、本姓はドイツ男名*Magihartのスロヴァキア語・ハンガリー語訛りの転訛形に由来すると考えるのが妥当である。尚、ドイツ本国の 南部地域でも、-hart男子名の同じような語末弱化が生じていた事が固有名詞の表記から窺い知れる。例えば、バーデン=ヴュルテンベルク州 ジークマリンゲン(Sigmaringen)郡の村ヘルトヴァンゲン=シェーナウ(Herdwangen-Schönach)の小地名エーブラツヴァイラー(Ebratsweiler)は 1254年にAlberto de Eberhartswiler17(第一要素は男名Eberhart由来)の形で現われている。 ヴァルツフートの16世紀の姓の記録MagatやMagettの形も、こうして 生まれたものに違いない。19世紀に活躍したウィーンの画家ハンス・マカルト(Hans Makart)の姓も同語源で、こちらはバイエルン方言で良く 見られるg→kの無声音化によって生じた形が元になっている。
[Gottschald(1982)p.336]
1 https:https://familysearch.org/search/record/results?count=75&query=%2Bsurname%3Amagat%7E&birth_place0=5&birth_year0=1500
2 この人物の奥さんの姓は更に表記がばらばらである。Elisabeth Garath(1578年)=Elisabetha Gorrat(1579年)=Elisabeth Horratt (1580年)=Elisabeth Hornott(1583年)=Elysabeth Horrott(1584年)
3 https://familysearch.org/search/record/results?count=75&query=%2Bsurname%3Amagath%7E&birth_place0=5&birth_year0=1600
4 https://familysearch.org/search/record/results?count=75&query=%2Bsurname%3Amageth%7E&birth_place0=5
5 https://familysearch.org/search/record/results?count=75&query=%2Bsurname%3Amagath%7E&birth_place0=5
6 http://wiki-de.genealogy.net/Mach_(Familienname)
7 http://www.ahnen-gesucht.de/ostpreussen/adressbucher/kreis-fischhausen-1922/personennamen-kreis-fischhausen-1922
8 http://adressbuecher.genealogy.net/entry/book/253?offset=2598&max=25&sort=place&order=desc
9 http://wiki-de.genealogy.net/Powunden,_OFB/Namenregister
10 Reinold Kapff "Deutsche Vornamen mit den von ihnen abstammenden Geschlechtsnamen."(1889)p.61
11 http://www.koeblergerhard.de/ahd/ahd_h.html
12 http://www.koeblergerhard.de/as/as_h.html
13 http://www.koeblergerhard.de/ahd/ahd_m.html
14 http://www.koeblergerhard.de/as/as_m.html
15 http://hu.wiktionary.org/wiki/Bern%C3%A1t
16 http://cs.wikipedia.org/wiki/Bernard
17 "Fürstenbergisches Urkundenbuch: Sammlung der Quellen zur Geschichte des Hauses Fürstenberg und -seiner Lande in Schwaben."(1885)p.109

更新履歴:
2015年2月15日  初稿アップ
PIE語根Mag-a-th: 1.*magh-¹「~出来る、力がある」; 2.*kar-¹「堅い」; 3.*-tu- 抽象名詞形成接尾辞

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