Etienne Lauverjon(1514年Nevers(ニエーヴル県))
1
Eugen L'auverjon(1738年Châteauneuf-Val-de-Bargis(ニエーヴル県):農民)
2
コート=ドール県に集住する姓で、特に同県ディジョン(Dijon)、リュフェ=レ=ゼシレ(Ruffey-lès-Echirey)に多く分布している。
アンヌ・ロヴェルジョン(Anne Lauvergeon:1959.8.2Dijon(コート=ドール県)~)はフランスの原子力産業企業アレヴァ
(AREVA)のCEO。集住地の出身である。語源は2つの説が提唱されている。
①ニックネーム姓、職業姓。中代フランス語(14~16世紀に用いられていたフランス語)のaubergeon「(袖の無い)小さな鎖帷子(クサリカタビラ)、
(12~17世紀に歩兵が着用した)短い鎖帷子」
3(>仏haubergeon)に由来し、その所有者を表す姓で
ある。或いは、「鎖帷子職人」を意味する姓の可能性もある。この語は、フランス・ルネサンス期の作家ラブレー(François
Rabelais:1483年(?)~1553年)の著作『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の第三巻『第三之書(Le Tiers Livre)』
(1546年)にも二箇所現れれている。
"nettoioient bardes, chanfrains,
aubergeons, briguandines, salades, bavieres, ..."(『第三之書』序章)
4
「綺麗に磨いた馬鎧、馬頭兜(ウマカブト)、小型鎖帷子(aubergeons)、鎖帷子、サレット(兜の一種)、半頬(ハンボウ)・・・」(この後も
、約70個ほどの武具の名前が列挙されている)
"comme maille a maille est faict le
aubergeon."(『第三之書』第42章)
5
「鎖と鎖を合わせて鎖帷子を作るように」
この語が男性名詞の定冠詞leと合わさって、一語となったもの(フランスの指小辞-onは男性名詞を作る)。
[Tosti(1997~)Lasgi-Lazzaroni項]
②地名姓。フランス東部アン(Ain)県、ブール=アン=ブレス(Bourg-en-Bresse)郡コリニ(Coligny)小郡の村ヴェルジョン(Verjon)に
由来する。「ヴェルジョン出身者」を意味するl'au Verjonの句が一語に膠着(agglutiation)したものと説明される
6。地名の歴史上の綴りは以下の様になっている。
medietas
Vertionis villae cum ecclesi(937~962年)
7, 8
in agro
Vircionis(10世紀)
8, 9
Raimundus
Vircionensis(1108年:人名)
10
Verjon(1236年)
8
Verjons(1250年頃)
7, 8, 11
de
Vergeone(1350年頃)
7, 8, 11
de
Verjone(1401年)
11
Verjon(1536年)
11
語源解釈は幾つかの説が提出されている。まず、人名に由来するという解釈であるが、人名Virtius
12に由来するという説
8、大陸ケルト語の人名Viricio(n)に由来する
とうい説
7がある。人名Virtiusは殆ど用例が見られない名前であるが、ラvirtūs「男らしさ」
13と関係があろう。これに形容詞形成接尾辞-iusが接続して派生したもので、恐らく「男らしい」という意味と
考えられる。後者のViricio(n)の名もケルト*wiros(o語幹男性名詞)「男」
14(アイルランドfer「男」
15)に形容詞形成語尾が付いた名前とみられるので、同様に「男らしい」を意味する名前と見られる。
両者の説では、後者のケルト語起源説に軍配が挙がる。上記の地名古形の最初の二つの記録の形の末尾が-onisとなっているが、
これはn語幹男性名詞の単数属格語尾だからである。Viricio(n)という人名でないと、この形にはならない。或いは、ラテン語
起源説に拘るのならば、*Virtiō(正し、未文証)というVirtiusから派生した人名であれば文法的に問題がない。
いずれの名の語根も、印欧祖語の*wī-ro-「男」(英world「世界(原義「人の世」)」の第一要素wor-も同語源)に遡る。
人名起源以外の解釈も諸説ある。オイル語(中世北フランスで話されていた俗ラテン語の末裔たる諸言語)のvergeon「(草木の)枝、
長い棒」に由来するという説
15、ゴール語の語根*verc-「庭園」に由来するのではないかとする説
である。後者の説は、フランコ=プロヴァンス語圏(サヴォワ、ドーフィネ、リヨン各地方、及びスイスのフランス語圏)で
よく用いられるverchères(<ラ*vercaria「耕地」)という語との関係を指摘する事で、説の根拠としている。
地名の最初期の二つの記録では、根幹部がそれぞれvilla「村」とagrus「畑」を修飾する属格形をとっており、人名起源の地名であることは明白で
ある。よって、最初に挙げた人名由来説が正しいと見なされる。この中で、一番疑わしい説はvergeon「小枝」由来説だろう。上記の地名の初期の
古形を見ると、第二音節は-tion-や-cion-と最初の子音が無声音で表されており([t]や[ts](文字の上では-c-))、有声子音を
表しているラvirgaやオイルvergeonに由来しているとは考えがたい。有声音に挟まれた有声子音の無声音化は、発音労力が増す。
この様な現象は一部の特定の言語では確かに存在するが、フランス語では確認されない。というか、フランス語はその逆の特徴を持つ
言語である。音韻上の理由で真っ先に排除すべき案だろう。
尚、この地名に由来する姓は、古い記録に既に現れている。例えば、
Guye de Verjon(1319年Bresse県(仏東部の旧州))
17、
Thomas de Verjon(1239年Nanton(ソーヌ=エ=ロワール県):騎士)
18等の例が見られる。
[Morlet(1997)p.599]
◆中仏aubergeon「小さな鎖帷子」←古仏haubergeon(英habergeon「中世の鎖帷子の一種」)(-onは指小辞)←hau(s)berc,halberc
「(カロリング朝末期から使われた、袖や頭巾の付いた)中世の長い鎖帷子」(仏haubert)←古高独halsberga,halsperga,halsbirga
「鎧、鎖帷子」(独Halsberge「鎖帷子」)←ゲルマン*χwals-berg-「首を守る為の防具、頸甲(クビヨロイ)」(古英healsbeorg,古ノルド
hálsbj

rg)←*χwalsaz「首(原義「回転」)」(←PIE*k
wol-so-(o階梯
+抽象名詞形成語尾)←*k
wel(ə)-「回転する」)+*berʒan「守る」(古英beorgan)(←PIE*bhergh-
「匿(カクマ)う、守る」)。本来は古高独やゲルマン語の原義に見える様に、首と肩の防具であったが、12~13世紀には胴を包む
丈の長い鎖帷子に変化した。
1 Société Nivernaise des Lettres, Sciences et Arts, Nevers"Bulletin de la Société
nivernaise des lettres, sciences et arts"vol.17(1899)p.340
2 http://cahiersduvaldebargis.free.fr/chat_1738.htm
3 http://jacques.mirou.free.fr/proverbes.htm
4 François Rabelais(Charles Esmangart, Éloi Johanneau編)"Œuvres de Rabelais"(1823)p.190
5 François Rabelais"Gargantua. Pantagruel."(1862)p.562
6 Morlet(1997)p.599 モルレはこの手法で多くの姓の語源を説明している。例えば、Lauvergeat
姓を地名Vargheas(ピュイ=ド=ドーム県)、Lauvernet姓を地名Vernet(アリェ県等)など。
7 Nègre(1990)p.229
8 http://henrysuter.ch/glossaires/topoV1.html
9 André Buisson"Carte archéologique de la Gaule: 01. Ain"(1990)p.169
10 Chazaud(1860)p.181
11 Philipon(1911)p.456
12 Centro di antichità altoadriatiche (Aquileia, Italy)"Aquileia nella 'Venetia et Histria
': atti della XV settimana di studi Aquileiesi"(1986)p.160
13 研究社『羅和辞典』p.722
14 http://en.wikipedia.org/wiki/Proto-Celtic_language
15 Buck(1949)p.81
16 あくまで自分の考えだが、この場合の形容詞語尾はPIE*-(i)ko-だろう(Watkins(2000)p.36)。
15 Nègre(1990)p.229 この単語自体は仏verge「金属棒」の指小辞形である。更にラvirga「小枝、
棒、鞭」(研究社『羅和辞典』p.721)に遡る。
16 Vurpas et Michel(1999)p.29、p.158
17 François-Alexandre Aubert de La Chesnaye Des Bois"Dictionnaire de la Noblesse,
Contenant les Généalogies, l'Histoire & la Chronologie des Familles Nobles de France."vol.3(1771)p.346
18 Georges Duby"La société aux XIe et XIIe siècles dans la région mâconnaise."(1971)
p.394
更新記録:
2011年5月29日 初稿アップ
2012年12月18日 ②の地名語源説を改定。