Kuropátkin クロパトキン(露)
概要
露kuropátka「ヤマウズラ」を語源とする世俗個人名から。或いは、その鳥に因んで子沢山の女性を表した渾名からか。
詳細
ニックネーム姓、父称姓。ロシアの軍人アレクセイ・ニコラエヴィッチ・クロパトキン(Alekséj Nikoláevič Kuropátkin(露Алексе́й Никола́евич Куропа́ткин):1858.3.29 Šešúrino(トヴェリ州)~1925.1.16 同地)の姓。古い記録が全く確認できない 姓である。

露kuropátka(куропа́тка)「ヤマウズラ属の鳥の総称(キジ科の鳥の一属)(属名Perdix)」1を語源とする世俗個人名か渾名に由来する姓。 個人名としては、スラヴ民族の異教時代の習慣の名残で、赤子を名付ける際、自然界の動植物名を用いた事が多かったことによる。 こうする事で、ヤマウズラが持つ有益な特質が子も受け継げるよう自然に願ったのだった。渾名としては、子沢山の女性が「ヤマウズラ」と 呼び習わされたのが起源だとする説がある2

クロプテフ(Kuróptev(Куро́птев ))姓も同語源で、こちらは指称辞-kaが付いてない方言形・古語形である露kúropat' (ку́ропат),kúropot'(ку́ропот)「ヤマウズラ」3に由来する。Kuróptev姓の方が文献上の記録が先行しており、私が確認している 限りでは17世紀が初出。
Jakuško Melentĭev syn Kuroptev (Якушко Мелентьев сын Куроптев) ... Družinka Melentĭev syn Kuroptev (Дружинка Мелентьев сын Куроптев)(17世紀Zaonéž'e(カレリア共和国、オネガ湖湖畔)) 4


尚、よく似た語形のクロポトキン(Kropótkin(Кропо́ткин))姓は、語源上無関係。
[Unbegaun(1972)p.187, Gruško et Medvedev(2000)p.260]
◆露kuropátka「ヤマウズラ」(指小形)(方言形kúropat', kúropot', kuroptáxa, kuropátva, kuropáška等)←古露kuropotĭ,kuropetĭ←スラヴ*kuropŭtĭ (jo語幹男性名詞)「ヤマウズラ」(ウクライナ≪方言≫kuropátva,kurýpka,ベラルーシkurapátka,kurapátva,古チェコkuroptva,チェコkuroptev, ポーランドkuropatwa,高地ソルブkurotwa)←*kurŭ(o語幹男性名詞)「雄鶏」(露≪古語、方言≫kúr「雄鶏」,ブルガリアkur「雄鶏」,スロヴェニア kùr「雄鶏」,チェコk(o)ur「雄鶏」,スロヴァキアkúr「雄鶏」,ポーランド,高地・低地ソルブkur「雄鶏」)+*pŭtĭ(jo語幹男性名詞)「鳥」 (←PIE*pet(ə)-「突進する、飛ぶ」(cf.フェデラー(Federer)))←PIE*kau-r- (ラトヴィアkaurêt「吠える、叫ぶ」,ラcaurīre「(豹が発情時に)吠える」)←PIE*kau-,*keu-,*kū-「吠える」(仏coq「雄鶏」,古高独hūwo「フクロウ」, 英howl「吠える」,リトアニアkàukt「(犬や狼が)吠える」,ブルガリアkokóška「鶏」,サンスクリットcákora-「ヤマウズラ」,クルドkurk「鶏」) 3, 5

チェルヌィフのロシア語語源辞典に非常に詳しい語源が書かれており、それによると以下の通り。 露kuropátka「ヤマウズラ」は『パリ語-ロシア語辞典』(1586年)p.404に"Une perdrix - Courat pateca"とあるのが文献上の初出である。 次いで、17世紀の英国の文学者・詩人のジェームズ(Richard James)が著した『ロシア語-英語辞典』(1618~1619年)にχᴽrapet, χᴽrapoetの 形で見える(後の方言kúropat', kúropot'に相当するものと思われる)。16世紀にはkuroptina「ヤマウズラの肉」の語が、17世紀には 『法典(Уложение)』(1649年)第152葉に"kúropotnaja sěmka sěmĭ (ку́ропотная сҍмка сҍмь)"「春祭り6のヤマウズラの 肉」の語が見える。この様に、指称辞による改新形kuropátkaと共に、古いkuropetĭ, kuropotĭも長い間併存していた。ロシアの作家、翻訳家ポリカルポフ (Fëdor Polikárpov)の『三言語辞典(スラヴ語-ギリシャ語-ラテン語)』(1704年)では、kuropatkaのみ掲載。第二要素のスラヴ*pŭt-ĭは、その後のロシア語内の発達ではpt-やpot-に変化した筈である(cf.露ptíca「鳥」,ptáxa「小鳥」 ,≪方言≫pótka「小鳥ちゃん」)。予想されるoの替わりにaが(*kuropótkaではなくkuropátkaで)現われているのは、不規則で説明が難しい。 恐らく、チェコpták「鳥」やポーランドptak「鳥」の様にpótkaとptáxaの混合形に由来するか、露xoxolátka「鶏冠のある鳥」のような、-átkaの 語尾をもつ語の影響による5。(引用終わり)

尚、第二音節の-o-は露kúr「雄鶏」の末尾に存在した古い語幹形成母音の名残であり、ギリシャ語の複合語形成時に連結辞として 用いられる-o-と同語源。印欧語根*kau-「吠える」に遡る姓は、他にカフカ(Kafka)、ココシュカ(Kokoschka)、コホウテク(Kohoutek)等が有る。
1 研究社露和辞典p.906
2 http://www.ufolog.ru/names/order/%D0%9A%D1%83%D1%80%D0%BE%D0%BF%D0%B0%D1%82%D0%BA%D0%B8%D0%BD
3 Černych(1993)vol.1 p.457f.
4 Илья Коновалов "Писцовые и переписные книги Заонежья XVII век: материалы к истории Заонежья. vol.1"(2004)p.132
5 Pokorny(1959)p.535f.、Černych(1993)vol.1 p.457、Vasmer(1950-1958) vol.2 p.422、https://ru.wiktionary.org/wiki/%D0%BA%D1%83%D1%80
6 露semík(семи́к)「春祭り」:復活大祭後、第七週目の木曜日(緑の木曜日ともいう)に死者の霊を祭り、春を迎える民間祝日 (研究社露和辞典p.2069)。сҍмкаは、その古い属格形。

更新履歴:
2015年3月15日  初稿アップ
PIE語根Ku-r-o-pát-k-in: 1.*kau-¹「吠える」; 2.*-ró- 分詞・形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*-o- o語幹形成母音; 4.*pet(ə)-¹「突進する、飛ぶ」; 5.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞; 6.*-no- 形容詞・名詞形成接尾辞

Copyright(C)2010~ Malpicos, All rights reserved.