Hemingway ヘミングウェイ(英)
概要
「Heming(r)(人名)の小道」を意味する喪失地名より。人名Heming(r)は「獣の後脚の皮」、又は「姿」を意味する。
詳細
Richard de Hemmyngway(1309年Wakefield(ウェスト・ヨークシャー))1
Thomas Emyngway(1379年、ヨークシャー)2
Willelmus Hemyngway(1379年、ヨークシャー)1, 2
Johannes Hemyngway(1379年、ヨークシャー)1, 2
Margareta Hymmygway(1556年Halifax(ウェスト・ヨークシャー))3
Johes fili9 Edwardi Heminwaie de Lightleffe(1562年Halifax)4
Georgi Heymyngeway(1565年Halifax)5
Richard Hemyngway de Southouru(1584年Halifax)6Ric. fil. Thoñis Hemȳgwey de Southour(1584年Halifax)6

地名姓。イングランド中北部ウェスト・ヨークシャーに特徴的で、特にウェイクフィールド(Wakefield)に集住する地域密着型の珍しい姓である。 同地には1309年から記録が有り、この年が初出である。同源異綴の姓にヘミングウェイ(Hemmingway)があり、こちらの方が人口が多く、やはりウェイクフィールドに集住する。 米国の小説家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway:1899.7.21 Oak Park(イリノイ州)~1961.7.2 Ketchum(アイダホ州))の 姓。

語形から考えて地名に由来することは間違いないが、これに類する地名は過去の記録から発見されておらず、人名用例しか知られていない。 恐らくはヨークシャーに存した喪失地名に因むと考えられている。『Oxford Names Companion』ではハリファックス(Halifax:ウェスト・ ヨークシャー州中西部の都市)で初期の記録が見つかる事から、この辺りを発祥地として絞り込んでいる。

この名前は「Heming(r)(人名)の小道」が原義。第二要素は中英wei(e),wai(e)「道」(>英way)7。第一要素の人名 Hemming(r)は古ノルド≪西部方言≫Hemingr8、古デンマークHeming8で、バイキングの 名前である。このノルド語の男子名は古ノルドhemingr,hǫmungrという名詞に由来するとみる説が有るが9、この 名詞自体の意味が資料によって微妙に異なっており、「(裁判儀式において用いられた)獣の後脚の皮」8, 10、 「足の裏側の皮」9, 11、「鹿の脛(スネ)の皮」12、「雄牛の後足の皮」 13等となっている。この語は語源的には古ノルドhǫm「(四足獣の)後脚の腿」,古英ham(m)「ひかがみ」(>英ham 「(四足獣の)腿、ハム」)と関係が有るので9、最初の「獣の後脚の皮」とするのが最も適当だろう。一方、人名は 古ノルドhamr「姿、外観」からの派生語を基にしている可能性も高い10。一方、古いドイツ語の男名Ham(m)ing,Hemming 14(←ゲルマン*χam-「覆う」15(ゴートhamōn「服を着せる」,仏chemise「シュミーズ」)← PIE*kem-「覆う」)を借用したとの説も有るが、スウェーデンの言語学者 ペテション(Lena Peterson:ウプサラ大学)によれば、大陸のこの名は逆にノルド語から借用したものと想定している 10

この人名はルーン碑文に多く記録されている。
heminkr(ウップランズ・ヴェースビュ市フレスタ(Fresta)のU256碑文)
henminkr(11世紀後半、テービュ(Täby)市ハーグビュ(Hagby)のU143碑文)
himinkr(オーデンサラ(Odensala)村ブロムスタ(Bromsta)のU444碑文)
hominkr(ノルスンダ(Norrsunda)村オーフスビュ(Åhusby)のU431碑文)
又、文献にも記録が有る。
Frwe Botild Heminghs dotter(15世紀か16世紀、Nestved(デンマーク))16

尚、『Oxford Names Companion』は人名をheim「家(home)」を構成要素に持つ名前の短縮形と見なす。heim「家」が何語か記載が無いが、恐らく 古ノルドheimr「故郷、世界(Heimat, Welt)」11の事であろう。然し母音が合わず、候補としては上掲2説に比べ弱い。 又、辻原康夫『人名の世界史』(2005、平凡社)p.98ではHemingway姓の原義を古ノルマン語で「彫工たちの土地」としているが、根拠が 明らかでない。「彫工」と意味的に関係のありそうな語は、上掲の古ノルドhamr「形、外観」以外に古ノルドhemja「押す」 、古ノルドhamla「(体を)切断する」(cf. ハミルトン(Hamilton))、古ノルドhamarr「ハンマー」辺りが想起されるが、これらの内のどれかと関係が有るのだろうか? 第二要素の中英wei(e)「道」を「土地」と釈しているのも不可解である。別の苗字の説明を誤入したものか。
[Reaney(1995)p.226, Bardsley(1901)p.374, Harrison(1912-1918)vol. p.199, ONC(2002)p.288, 苅部(2011)p.129]
◆古ノルドhamr「姿、外観、覆い」←ゲルマン*χamaz(a語幹男性名詞)「覆い、皮膚」(古英hama,homa「服、皮膚、体、産褥」,中低独hame「覆い、 (豆の)莢、捕獲袋」,古高独hamo「釣り針、捕獲網」)←PIE*kom-o-(o階梯)←*kem-「覆う」15
1 Reaney(1995)p.226
2 Bardsley(1901)p.374
3 E. W. Crossley "The Parish Registers of Halifax, co. York. vol.2 (Marriages and Burials: 1538-1593)"(1914)p.35
4 ibid. p.219
5 ibid. p.53
6 ibid. p.305
7 http://quod.lib.umich.edu/cgi/m/mec/med-idx?type=id&id=MED52010
8 『The Viking Answer Lady』 古ノルド語男名編(2015年10月24日閲覧)
9 de Vries(1977)p.222
10 Lena Peterson "Nordiskt runnamnslexikon."(2007)p.129(2015年10月24日閲覧)
11 http://www.koeblergerhard.de/an/an_h.html
12 Susanne Kries "Skandinavisch-schottische Sprachbeziehungen im Mittelalter."(2003)p.253
13 Gert Esterle "Die Boviden in der Germania."(1974)p.130
14 Förstemann(1966)sp.600
15 http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_h.html
16 Jacob Langebek, ‎Peter Frederik Suhm, ‎Laurids Engelstoft "Scriptores rerum Danicarum medii aevi. vol.4"(1776)p.325

更新履歴:
2015年10月28日  初稿アップ
PIE語根Hem-ing-way: 1.*konə-mo-「向う脛、脚、腿、骨」 、又は*kem-³「覆う」; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*wegh-「行く、車輛で運搬する」

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