Hamilton ハミルトン(英)
概要
恐らく、「*Hamela(人名:「手や足を切断された者」が原義)の農場」を原義とする英国に2ヵ所ある同名の地名に由来。
詳細
Richard de Hamelton'(1195年Norfolk)1
Gilbert de Hameldun(1272年Paisley(スコットランド))1

地名姓。英国のF1レーサー、ルイス・カール・デビッドソン・ハミルトン(Lewis Carl Davidson Hamilton:1985.1.7 Stevenage(ハートフォードシャー 州)~)の姓。スコットランド、特にラナークシャーに多い。以下に挙げる同名の地名に由来する。

1.レスターシャー州の州都レスター(Leicester)市内北東部のハンバーストーン・アンド・ハミルトン(Humberstone & Hamilton)区の地名 Hamelton'(1130年頃/1199/1200/1306 etc.年)2
Hameleton(1199年)2
Hameldon(1220/1324/1353年)2
Hameld'(1236年)2
Hamilton'(1294年)2
Hamulton'(1406/1434年)2
Homulton'(1489年)2
Hambleton(1609年)2

原義は「*Hamela(人名)の農場」2, 3。"English Place-Name Society"(以下EPNS)は地名の祖形を最もよく反映している形を 1199年のHameletonとし、lとtの間の-e-を属格語尾と見て(古期英語の弱変化男性名詞の単数属格語尾-anの残滓)、第一要素を人名と判断する。ハメラ (*Hamela)は非文証の男子名であるが、古英*hamol,*hamel「不具の、手足を切断された、傷跡が残った、曲がった(maimed, mutilated, scarred, crooked)」に由来する男名とされ3、古ノルド*hamall「不具の」(cf.古ノルドHamall「去勢された雄羊、足を失った獣」 4)の人名転用である古ノルド語の人名Hamallとの平行性も指摘されている2。実際、古英 hamola「手や足を切断された者」5という語彙が存在し、これが人名に転用された可能性は有り得る。同語源の男子名は 古高地ドイツ語にも見られ、876年に確認されているヘミロ(Hemilo)6がある。但し、これらのゲルマン諸語に見られる 男名はゴートhamon「覆う、服を着せる」7,古英hama「服、肌」8の語根に指小辞が接続して 形成された可能性も考えられる9

又、地名は古英*hamel「不具の、手足を切断された」の名詞用法で「切断、平たい丘」の意で用いられている可能性も指摘されている 2。この場合は「平たい丘・切り立った丘近くの農場・村」を意味する地名だとされる2。 ONCは-donの古形が地名の祖形を表すと捉えており、「損壊した丘、曲がった岡」を原義と見ている10。但し、-donの形は -tonの形に比べると使用頻度が圧倒的に少なく、初出年もより遅い為、EPNS等が提唱する古英tūn「農場、村」と解釈するほうが無難であると 思われる。

2.スコットランド、サウス・ラナークシャーの地名Hamilton
Hamelton(1291年)11
Hameldone(1296年)12
この地名は1の移動地名である。1の出身者であるWalter Fitz Gilbert de Hamiltonという人物が13世紀にもたらした名で、元々はCadzowという名の 地名だった11。Cadzowの地名の由来は不詳。地名の移動年が13世紀末と古く、またラナークシャーにハミルトン姓が 多く見られる点からしても、この姓は2のHamilton地名に由来している場合の方が多いと考えられる。
[Reaney(1995)p.214,Harrison(1912-1918)vol.1 p.184,Bardsley(1901)p.352,Arthur(1856)p.152,ONC(2002)p.275,MacLysaght(1999)p.143f.]
◆古英hamola「手や足を切断された者」←ゲルマン*χamalōn(n語幹男性名詞)「手や足を切断された者」←*χamalōn「手や足を切断する」(古高独hamalōn 「手や足を切断する」(>独hämmeln「切る、切断する」),古ノルドhamla「手や足を切断する」(cf.古英hamelian 「手や足を切断する、付随にする」,古フリジアhamelia,homelia「手や足を切断する、破壊する」))←PIE*kom-ol-ā-(o階梯+指小辞・形容詞形成接尾辞 +動詞形成接尾辞)←*(s)kem-「角が無い」(ギkem(m)ás「若い獣」,リトアニアšmùlas「角が無い」,露komólyj「角が無い」,サンスクリットśáma-ḥ「角が無い」) 5, 13。cf.シャンバーグ(Schamberg)
1 Reaney(1995)p.214
2 EPNS vol.81(2004)p.30-31
3 苅部(2011)p.122
4 Köbler anW H項p.4
5 Köbler aeW H項p.12
6 Förstemann(1966)sp.600
7 Gottschald(1982)p.234
8 Köbler aeW H項p.11
9 この説明は私の考え。
10 ONC(2002)p.275
11 Watson(1973)p.153
12 Mackenzie(1931)p.204 本書は、ラナークのHamilton地名の初出をHamelton(1091年)としている。1091年は誤植と思われる。Watson(1973)も ONCも1291年としている。
13 Köbler idgW H項p.87、Pokorny(1959)p.556

執筆記録:
2012年1月7日  初稿アップ
PIE語根Ham-il-to-n: 1.(s)kem-「角が無い」; 2.*-lo-指小接尾辞; 3.*dheu(ə)-²「閉じる、一周する」; 4.*-no- 分詞・名詞形成接尾辞

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