Halilhodžić ハリルホジッチ(ボスニア)
概要
ボスニア語の男名の尊称Halil-Hodža「ハリル師」の父称に由来し、「ハリル師の(息子)」が原義。男名Halilはアラビア語で「友達」の意。
詳細
父称姓。ボスニア・ヘルツェゴビナのサッカー選手、サッカー指導者ヴァヒド・ハリルホジッチ(Vahid Halilhodžić:1952.10.15 Jablanica(ヘルツェゴビナ= ネレトヴァ県)~)の姓。非常に珍しく、旧ユーゴスラビア圏では比較的綴りが長い苗字の一つである。イスラム教に関係した起源をもつ。 セルビア語キリル文字表記(1818年制定の綴字法)ではХалилхоџићと綴る。

ボスニア語の男名の尊称Halil-Hodža(ハリル-ホジャ)「ハリル師」の父称に由来し、「ハリル師の(息子)」が原義。ハリル(Halil)はトルコ語の男子名Halilからの 借用で、更にアラビア語の男子名ハリール(Khalil(خليل))1に遡る。男名の原義は「友達、親友」1, 2。 現代アラビア語ではخليلは、「(恋人としての)彼氏」の意味もあるらしい3。ボスニアhodžaは「イスラム教の導師・司祭、教理伝道師 (vjeroucitelj)、マドラサの教授」4を意味し、この語もトルコhoca「イスラム教の導師、教師」の借用で、更にペルシアkhâje(خواجه) 「(特にオスマントルコの)政府の高官・大臣、宦官、≪以下は古義≫殿方、富裕者」5に遡る(これ以前の語源は確認できなかった)。 ボスニアhodžaはかつて個人名の後に置いて尊称として用いられ、他にもAhmed-Hodža「アフメド師」、Ali-Hodža「アリー師」、Hajdar-Hodža「ハイダル師」、Hasan-Hodža「ハサン師」、 Ibrahim-Hodža「イブラヒム師」、Jusuf-Hodžić「ユスフ師」、Mahmut-Hodža「マフムト師」、Murat-Hodža「ムラト師」、Osman-Hodža「オスマン師」、Omer-Hodža「オメル師」等の例が有り、これらは後にアフメドホジッチ(Ahmedhodžić)、 アリホジッチ(Alihodžić)、 ハイダルホジッチ(Hajdarhodžić)、 ハサンホジッチ(Hasanhodžić)、イブラヒムホジッチ(Ibrahimhodžić)、ユスフホジッチ(Jusufhodžić)、マフムトホジッチ(Mahmuthodžić)、ムラトホジッチ(Murathodžić)、オスマンホジッチ(Osmanhodžić)、 オメルホジッチ(Omerhodžić)等の姓を派生させている6

男名尊称Halil-Hodžaの実例としては、以下の人物が歴史上確認される。
Halil hodza(1584年Imotski(クロアチア南部):ハティーブ7)8
Halil hodža (Халил хоџа)(1669年Sutjeska(セルビア、中央バナト郡):ムアッジン9)10

タリバンの指導者ムハンマド・オマル(Muhammad Omar)の事をオマル師(Mullah Omar)とも表現するが、ここで用いられている英mullah (アラビアملا‎)「イスラム教の教義に精通した男性イスラム教徒」の尊称としての用法「師」と殆ど同じである。スポーツ総合サイトの『スポーツナビ』では、 千田善氏の記事中にHalilhodžić姓の 説明があり、「親友・指導者の息子」の意味とし、ハリルは「親友」、ホジッチは「指導者(ホッジャ)の子孫」と記述されている。 この記述だと語源的に形成された順序が、"(Halil+Hodža)+接尾辞-ić"ではなく、"(Halil)+(Hodža+接尾辞-ić)"と読み誤らせる可能性が 有るのではないだろうか。千田氏はオシム監督の通訳も務めたセルボ=クロアチア語、ボスニア語に通じた方だが、一般読者向けに 説明を簡略化してこの様な表現にしたのかもしれない。

[A. Skaljic "Turcizmi u sh.jez,Sarajevo."(1985)p.305, I. Smailovic "Musliman.imena orijental.porijekla u BiH-u."(1990)p.266]
1 http://en.wikipedia.org/wiki/Khalil_(name)
2 http://de.wikipedia.org/wiki/Halil、http://www.chacha.com/question/what-does-the-bosnian-name-halil-mean-in-english
3 https://ja.glosbe.com/ja/ar/%E5%BD%BC%E6%B0%8F、http://en.wikipedia.org/wiki/Hod%C5%BEi%C4%87
4 http://www.ogorje.net/prezime/halilhodzic/4438.html
5 http://en.wiktionary.org/wiki/%D8%AE%D9%88%D8%A7%D8%AC%D9%87#Persian
6 http://hjp.novi-liber.hr/index.php?show=search_by_id&id=fVxiUBE%253D
7 英khatib,khateeb,ボスニアhatib,アラビアkhaṭīb(خطيب):イスラム教で金曜日正午の集団礼拝や二大祭の礼拝に先んじて、時の権力者 の名において説教(フトバ)を行う人物を指す。
8 Hivzija Hasandedić "Muslimanska baština Bošnjaka II."(1999)p.66
9 英muezzin,ボスニアmujezin,トルコmüezzin,アラビアmu’aḏḏin(مؤذن‎‎):イスラム教の信徒に礼拝の時刻を告げる呼び掛け (アザーン)を行う人物のこと。モスクの高塔ミナレットから人差指を耳の穴に入れ、メッカの方角に向かい声高に音楽的な朗唱を行う。
10 M. Filipović "Visočka nahija, Srpski etnografski zbornik. vol.43"(1928)p.593

更新履歴:
2015年2月21日  初稿アップ
2015年4月5日  追記
PIE語根Halil-hodž-ić: 1.セム語起源; 2.未確認; 3.未調査

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