Iob Gogolĭ (Иов Гоголь)(1495年Nóvgorod(露、ノヴゴロド州):農民)
1
Ievikŭ Gogolĭ (Иевикъ Гоголь)(1495年Bel'
2:農民)
3
Ondrějko Hoholĭ (Ондрҍйко Гоголь)(1500年Búdkiv(ウクライナ、ヴィーンヌィツャ州):農民)
3
Iona Hoholĭ (Иона Гоголь)4(1595年Pinsk(ベラルーシ、ブレスト州):司教)
5
Krištof Hoholĭ (Криштоф Гоголь)(1632年Volýn'(ウクライナ北西部):貴族)
5
ニックネーム姓、職業姓、父称姓。ウクライナ語の姓ホーホリ(Hóhol'(ウクライナГо́голь))のロシア語対応形。ウクライナの小説家で、帝政ロシアで
活躍したニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ(ゴーガリ)(Nikoláj Vasíl'evič Gógol'(露Никола́й Васи́льевич Го́голь):
1809.4.1 Velýki Soróčynki(ウクライナ、ポルタヴァ州)~1852.3.4 Moskvá)の姓。ウクライナ語の読みでは、ミコーラ・ヴァスィリオヴィチ・
ホーホリ(Mikóla Vasýl'ovyč Hóhol'(ウクライナМико́ла Васи́льович Го́голь))。出生時の姓はヤノーウシクィイ
(Janóvs'kyj(Яно́вський))というウクライナ姓であったが、1821年からホーホリ=ヤノーウシクィイの複姓を名乗るようになった。
彼の家系の伝説によると、17世紀の
右岸ウクライナで活躍したコサックの首長(英hetman)オスタプ・ホーホリ(Ostap Hohol'(Остап (Євстафій)
Гоголь):1679年没)が先祖だという
6。ヤノーウシクィイ、又はロシア姓のヤノフスキーという姓は、小説家
ニコライの父ヴァシリー・ホーホリが1792年にロシア貴族に叙せられた時に与えられた貴族称号で、本姓はホーホリであった
7。
姓はウクライナhóhol'(го́голь)「ホオジロガモ(学名:Bucephala clangula)」
8に由来する。
元は渾名だったものが姓と化したものだが、その謂れや由来に関しては様々な可能性が考えられる。同語源の露gógol'(го́голь)「ホオジロガモ」
9は、方言では様々な転義を獲得している:≪アルハンゲリスク方言、ヴォログダ方言、ペルミ方言、ヤロスラーヴリ
方言、スモレンスク方言、ヴォロネジ方言、ニージニーノヴゴロド方言≫「伊達男、チャラい奴、女たらし」
10、
≪ニージニーノヴゴロド方言≫「堂々たる人物、スマートな体形の人、姿勢が真っ直ぐな人」
10、≪カザニ方言≫
「高慢な男、横柄な人物」
10があり、また「気高い人、威勢のいい奴」
5の意味も別の方言で
存在する。これらの特徴を有した人物を表した渾名に由来すると見られる。また、ロシア語にxodít' gógolem「ふんぞり返って歩く、威張って歩く、
もったいぶる」という良く用いられる言い回しが有り、この為「思い上がり野郎、横柄な奴」を意味した渾名だった可能性もある。「鴨猟を生業とした
猟師」とみる職業姓と見る説もある。
本来のロシア語の対応する姓はゴーゴレフ(ゴーガリフ)(Gógolev(Го́голев))である。こちらは、同語源の露gógol'
「ホオジロガモ」起源。ベラルーシにも対応するホーハリ(Hóhal'(Го́галь))姓が有る(<ベラルーシhóhal'「ホオジロガモ」)。
露姓Gógolevの記録は以下の通り。
Dmitrij Gogolev (Дмитрий Гоголев)(1554年Dviná川流域(ロシア西部))
1
Ignatej Savelĭev syn Gogoleva (Игнатей Савельев сын Гоголева)(1558年Solovéckij諸島(露、
アルハンゲリスク州))
10
[Red'ko(1966)p.98, Fedosjuk(2004)p.59f., Ganžina(2001)p.130, Kjuršunova(2010)p.117f., Veselovskij(1974)p.81, Baskakov(1993)p.38,
Unbegaun(1972)p.19, Vedina(2008)p.115, ONC(2002)p.251, Gruško et Medvedev(2000)p.117,
Mosin(2000)p.90, Tupikov(1903)p.108f., Biryla(1969)p.113, Xalikov(1992)p.72]
◆ウクライナhóhol'「ホオジロガモ」←スラヴ*gogolĭ(yo語幹男性名詞)「ホオジロガモ」(露gógol'「ホオジロガモ」(<古露gogolĭ),ベラルーシhóhal'
「ホオジロガモ」,ポーランドgągoł,gogoł 「ホオジロガモ」(cf.古ポーランドgogolica「キンクロハジロ(カモ科ハジロ属の鳥)」),チェコhohol
「ホオジロガモ」)←擬音語起源
11。
バルト語派にこれと形義ともに近い語群が存在し、語源的に関係が有ると思われる:古プロシアgegalis「小型のカモ科ハジロ属の鳥の一種」,ラトヴィアgegals「カモ科ハジロ属の
鳥の一種」,gaĩgala「鳩の一種」,リトアニアgaĩgalas「雄ガモ」。又、古ノルドgagl「ハクガン(カモ科マガン属の鳥)」も関係が有ろう。
露gagára「アビ」(cf.
ガガーリン(Gagárin))とも関係が有るとみられ、「ガーガー」といった
鳴き声を写した擬声語に由来すると見られる。
又、「雄ガモ、鴨、ハジロ属のカモの一種」の意で、更に「シギ、ヨナキドリ、ハト」といった意味での似た様な語形の単語が広く分布する事から、
トルコ語からの借用ではないかとするバスカコフの説もみられる。彼によれば、トルコgögül「雄ガモ」,キルギスkögöl「雄ガモ」,ヤクート
köγöüllä:χ「鶏冠のある鴨、ハジロ」(<kögül「青味がかった(暗灰色の)、淡青色の、緑っぽい」)といった語から、羽の色に因んだ名前だとする
12。
1 Veselovskij(1974)p.81
2 この地名は
露Wkipediaによると、
ロシアに少なくとも7か所、ベラルーシに4か所ある。トゥピコフの記述だけからは、これらのうちどれに比定されるうるか不明である。
ここでは、ロシアの記録と見なして、人名のローマ字アルファベット転写形をそのままgで表記した。
3 Tupikov(1903)p.108f.
4 スラヴ祖語の有声軟口蓋破裂音[g]が、ベラルーシ語でどの時期に緩音化により有声軟口蓋摩擦音[ɣ]に変化したか調べても
分からなかった。ウクライナ語では13世紀に[g]が有声軟口蓋摩擦音[ɣ]に変化し、更に弱化が進み16世紀には非口腔音化を経て有声声門摩擦音
[ɦ]に発達している(
Wikipedia英語版の
記事参照)。ベラルーシ語でも16世紀末には有声軟口蓋摩擦音[ɣ]に至っていたとみなして、ローマ字転写はhとした。
5 Ganžina(2001)p.130
6 http://uk.wikipedia.org/wiki/%D0%93%D0%BE%D0%B3%D0%BE%D0%BB%D1%8C_%D0%9C%D0%B8%D0%BA%D0%BE%D0%BB%D0%B0_
%D0%92%D0%B0%D1%81%D0%B8%D0%BB%D1%8C%D0%BE%D0%B2%D0%B8%D1%87
7 http://en.wikipedia.org/wiki/Vasyl_Gogol-Yanovsky
8 http://en.wiktionary.org/wiki/%D0%B3%D0%BE%D0%B3%D0%BE%D0%BB%D1%8C
9 研究社露和辞典p.377
10 Kjuršunova(2010)p.117f.
11 Vasmer(1953-1958)vol.1 p.425
12 Baskakov(1993)p.38
更新履歴:
2015年3月15日 初稿アップ