特にフリジア語圏で古くから良く用いられていた名前で、Focke Ukena(1426-33年オルデンブルク、ブレーメン:フリジア人の族長)
3, 10、Focco Eusma(1415年フリースラント)3等の用例が見られる。
788年にFolkmarという人物がFocko、Fuccoとも、992年にVolkoldusという人物がVocco、Foccoとも呼ばれている11。
男名フォッコの起源を、ゴートfugls「鳥」12や古ノルドfok「吹雪」13とする説も
有るようだが14、上掲の名前の言い換えから判断して、認めがたい。余談だが、ハリー・ポッターの登場人物の
魔法省大臣ファッジ(Fudge)の姓は、独姓Fockeの英語版であり完全に同語源である。
[Gottschald(1982)p.509,Kohlheim(2000)p.248,Bahlow(2002)p.127,(1972)p.170,Naumann(2007)p.109,Hellfritzsch(1992)p.209,
Schwarz(1973)p.90,Morlet(1997)p.418]
Heinrich und Fritz die Vockhe zu Sickershaussen(1386年Kitzingen(ウンターフランケン))15 Eb. der Vocke(年代未確認(13~15世紀の何時か)ティロル)16
②ニックネーム姓。ドイツ語圏南部。苗字本に未載。特に異綴のフォッケ(Vocke)姓で、バーデン=ヴュルテンベルク州のカールスルーエ郡と
ライン=ネッカル郡に集中分布する。上掲の姓の古形の通り、定冠詞が現れている点から父称姓である筈が無く、①とは別語源である。恐らく、
独Focke「サギ科の鳥(reiher)、クロライチョウの雄(birkhahn, schildhahn)」17に由来すると思われる。これらの
鳥に風貌や振る舞いが似ていた人物か、鳥猟師に与えられた姓かもしれない。但し、上掲の古姓は実際には廃れていて、後にドイツ語圏
北部起源の①姓が南部にも広まった可能性も否めない。
◆独Focke「サギ科の鳥、クロライチョウの雄」←?。恐らくスウェーデンfock,デンマーク,蘭fok「前檣帆」,古ノルドfok「吹雪」等と同根で、
「飛ぶもの」が原義か。ゲルマン*foʒlaz「鳥」(英fowl「鶏」,独Vogel「鳥」)と関連しているように見える。ゲルマン*foʒlazに関してはPIE*pleu-
「流れる」由来説が有力18。
1 Schmidt(1885)p.523 2 Leonid Arbusow "Das älteste Wittschopbuch der Stadt Reval (1312-1360): der gelehrten estnischen
Gesellschaft in Dorpat."(1888)p.49 3 Bahlow(1972)p.170 4 Ehmck et Bippen vol.3(1877)p.437 5 Koppmann(1869)p.334 6 Förstemann(1966)sp.437、Seibicke(1998)p.47 7 Köbler ahdW F項p.122 8 Köbler asW F項p.303 9 Köbler afriesW F項p.25 10 Herbert Schwarzwälder "Geschichte der Freien Hansestadt Bremen: Von den Anfängen bis zur
Franzosenzeit."(1975)p.104-112 11 Naumann(2007)p.109 12 Buck(1949)p.183 13 Köbler anW F項p.22 フェルステマンは古ノルドfokの語義を「飛行(Flug)」とするが、確認が取れない。デンマークfog「吹雪」,
fyge「吹雪く」等を参照。 14 Förstemann(1966)sp.437 15 "Acta in Sachen Würtzburg contra Brandenburg."(1629)p.313 16 Oswald Redlich "Quellen zur Steuer-, Bevölkerungs- und Sippengeschichte des Landes Tirol im 13.,
14. und 15. Jahrhundert."(1939)p.73 17 DWB vol.3 sp.1864 文法性は男性、女性両方あるらしい(m.とf.両記されている)。又、独Focke「前檣帆(ゼンショウハン:vordersegel)」という女性名詞も同辞典は録すが、
内陸地で帆船に関する姓が出来るとは考えにくいので除外した(中オランダfocke「前檣帆」は同語源。露fok「前檣帆」はゲルマン語からの借用)。尚、レクサーの中高独辞典にvockeなる単語が録されているが、語義の
説明がない(Lexer vol.3(1878)sp.424)。swm.とあるので、弱変化の男性名詞であるらしい。用例が載っているので、以下に引用する。
ich spriche zuo dem kinde:
'nu wol für, hër vocke!
zuo mengem rûhen stocke,
zuo dornen und zuo brâmen.'
(原出典はHugo von Langensteinの"Martina"(1293年)。zuo mengem以下はDWB vol.3 sp.1864より補足した)
ある人物が子供に語った台詞に見える。肝心の"nu wol für, hër vocke!"が訳せれない。語義不詳なのであろう。この単語に由来する
姓である可能性もあるが、真偽は不明。 18 英語語源辞典p.535、Watkins(2000)p.68、Pokorny(1959)p.835-837
執筆記録:
2011年7月20日 初稿アップ