Micħ de Ednesofre(1197年Chesterfield(ダービーシャー))
1
Richard de Ednesovere(1225年Edensor(ダービーシャー))
2
Thomas de Ednesouere, filius Lucise de Ednesouere(1259年Worcester(ウスターシャー))
3
Thomas de Endesovre(1272年Polesworth(ウォリックシャー))
4=
Thomas de Endesouere(1276年Baginton(ウォリックシャー))
5
地名姓。ベルギーの画家ジェームズ・アンソール(James Sidney Ensor:1860.4.13 Oostende(ウェスト=フランデレン州)~1949.11.19 同地)の姓。
父親のジェームズ・フレデリック(James Frédéric E.)はベルギーの首都ブリュッセルの生まれだが、23歳の時には英国サセックス州の
ブライトン(Brighton)に居住する英国人であった。ジェームズ・フレデリックは英国人の父ジェームズ・レイン
フォード(James Rainford E.:1805~1806年頃生誕)と母アン・アンドルー(Anne Andrew)の息子である。この夫妻はブライトンで結婚し、そこで
暮らしていた
6。James Rainfordの父
ジェームズ・エンザー(James Ensor)(画家の曽祖父)は1777年ロンドンに生まれ、織工を生業とした。
彼はチュール(ベールやスカーフに用いるネット状の薄い布)の生産や販売の為に、1824年から1832年までヘントに住んでいた。1820年代には
チュールやレース製造用の新設備を発明し、1833年にそのライセンスが満期になるまでにある程度成功をおさめていたらしい。
1826年には彼と自身の家族がオランダ国籍を取得している(当時、ベルギーはオランダ領であった)。詳しい経過はよく解らないが、
画家の曽祖父から3世代に渡って、英国とベルギーを行き来した生活をしていた様である。本姓は英国ではイングランド中部のウォリックシャーに多く、
特にコヴェントリー(Coventry)によく見られる。
語源はイングランド中北部ダービーシャー北部ダービーシャー・デイルズ(Derbyshire Dales)管区の村
エンザー(Edensor)(発音注意!
7)に由来。その発音通りの改新形がEnsorで、Edensorは古い語源的綴りを留めたもの。
Edensoure(1086年:DB)
8, 9
Ednesovre(1086年:DB)
8, 10
Hennesoure(1086年:DB)
8, 10, 11
Edesourie(1160年頃)
10
Ednesouria(1160年頃)
10, 11, 12
Ednesofre(1196年)
10, 12
Edensoure(1224年)
11
Edensore(1224年)
11
Edneshovere(1243年)
10
Edensoure(1269年)
11
Edinsouere(1322年)
11
Ednesore(1339年)
11
Ednusore(1342年)
11
Ednesouer(1353年)
11
Edenessoure(1376年)
11
Hednesouere(1381年)
11
Edensovere(1401年)
11
地名の原義は「*Eden(人名)の端場・境界・土手・尾根・岸辺」
8, 9。*Edenという男名は文証されていないが、
*Ēadinの異形で、古英ēad「富、豊かさ、幸運」
13を第一要素に持つ男名、例えば今日のEdgar、Edmond、Edward、
Edwinの短縮愛称形であった(-en,-inは指小辞)。従って、人名は「豊ちゃん、幸ちゃん」の意。一方、古期英語の男名Eadnoth
14に由来すると見る説
15, 16、同じく古期英語の男名Eadhun
17に由来すると見る説も有る
18, 19。後者は音韻的にも文法的にも有り得るので
無視できない説だが、前者は古い記録からは形態の面で難が有り認められない。後半要素は古英ōfer,ōfor「岸辺、縁、海岸、土手」
20(cf.ハノーヴァー(Hannover)。
今の発音は前半要素の-dn-の音位転換形-nd-からの発達だが、綴りは転換前の遺形を残すもので(一部の古形には音位転換形が現れる)、
全く同じ現象は英Wednesday「水曜日」でも起こっている(wendesdei「水曜日」(1300年頃、Layamon写本)
21)。尚、
ウォリックシャーに存する小地名
バズリー・エンザー(Baddesley Ensor)は経由地で、
ダービーシャーのエンザー(Edensor)発祥の家族Edneshoure(Ensor姓の古形)が13世紀以来当地に居住した為に、限定符として領主名Ensorが添加されたもので
22、
本来の地名はBaddesleyである。この地名の古形は特に音位転換形が多く出現しているので、参考までに以下に挙げておく。
Baddesley Endeshouer(1327年, 1332年)
23
Baddesley Endeshouere(1327年, 1332年)
23
Baddesley Endesouer(1327年, 1332年)
23
Baddesley Endesouere(1327年, 1332年)
23
Baddesley Endesore(1380年)
23
Baddesley Dynsore(1434年)
23
Badsley Endsor(1656年)
23
尚、姓のカナ転写はアンソールが普及しているが、これはフランス語読みに基づく(IPA[ɑ̃-sɔ:ʀ]
24)。画家の
アンソールの情報が、最初はフランスを仲介して日本に伝わったからだろう。ベルギーではエンソルと発音している様に聞こえる
25。由来元の元々の英語でのEnsor姓は、地名同様エンザーと読まれると思われるが、確認出来ない。
[Reaney(1995)p.156, Bardsley(1901)p.275, Harrison(1912-1918)vol.1 p.136, ONC(2002)p.199, Arthur(1857)p.105]
1 Joseph Hunter "Fines, sive Pedes finium: sive, Finales concordiae in curia domini regis. vol.2 (1195-1214)"(1844)p.16
2 "Journal of the Derbyshire Archæological and Natural History Society. vol.7"(1885)p.217
3 Charles Roberts "Calendarium Genealogicum: Henry II. and Edward I."(1865)p.86
4 "Annual Report of the Deputy Keeper of the Public Records. vol.42"(1881)p.634
5 "Annual Report of the Deputy Keeper of the Public Records. vol.45"(1885)p.82
6 Francine-Claire Legrand "James Ensor précurseur de l'art moderne."(1999)p.17
7 Google地図では"イーデンソー"とルビが振ってあるが、勿論誤りである。Google地図の外国語地名のルビは誤りが多く、
全く当てにならない。
8 "Journal of the Derbyshire Archaeological and Natural History Society."(1880)p.47
9 ONC(2002)p.1022
10 Eilert Ekwall "Studies on English place- and personal names."(1931)p.73
11 Derbyshire Archaeological Society "Derbyshire Archaeological Journal. vol.36"(1913)p.235
12 Jürgen Udolph "Namenkundliche Studien zum Germanenproblem."(1994)p.815
13 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_e.html
14 Searle(1969)p.184
15 Isaac Taylor "Names and Their Histories: A Handbook of Historical Geography and Topographical Nomenclature."(1898)p.387
16 Harrison(1912-1918)vol.1 p.136
17 Searle(1969)p.182
18 Ron Eddins "Broken Branches."(2013)p.121
19 ONC(2002)p.199
20 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_o.html
21 英語語源辞典p.1553
22 ONC(2002)p.925
23 http://placenames.org.uk/browse/mads/epns-deep-13-b-subparish-000002
24 小学館ロベール仏和大辞典p.910
25 http://nl.forvo.com/word/james_ensor/
更新履歴:
2016年4月9日 初稿アップ