Dornier ドルニエ(仏)
概要
古プロヴァンスdorna「水瓶、水差し型手付き壺」に由来。その商人・職人を表す。
詳細
M. Dornier(1200年Rochejean(ドゥー県))1
Claude et Pierre Dornier(1564年Dole(ドゥー県))2
Claude Dornier(1608年Rougemont(オート=サオーヌ県):司教座聖堂参事会員)3
Nicolas Dornier, fils de Grandpierre Dornier(1660年ドゥー県)4
Claude-Pierre Dornier(1746年Dampierre-sur-Salon(オート=サオーヌ県))5

職業姓。 ドイツの航空技術者のクロード・オノレ・デジレ・ドルニエ(Claude Honoré Desiré Dornier)はフランス人の父ドーファン・ドルニエ (Dauphin D.)とドイツ人の母マティルデ(Mathilde(旧姓Buck))の長男として、1884年5月14日バイエルン州南西部の都市ケンプテン(Kempten) に生まれた。ドルニエ家の歴史・出自が書かれているサイト6や、クロード・ドルニエの伝記7、 バーデン・ヴュルテンベルク州の伝記8、航空機メーカーのドルニエ社の社史9の 情報によれば、父ドーファンの履歴は以下の通りである。

父ドーファンは1845年にフランス南東部のイゼール(Isère)県の都市グルノーブル(Grenoble)に近いヴィヤール・ド・ラン( Villard-de-Lans)という名の小さな町で生まれた。1862年、彼はフランス語教師としてケンプテン市に赴任する。普仏戦争(1870-1871年)により、バイエルン王国がプロイセン 側に立ってフランスとの戦争に参加してしまった為、彼はフランスに帰国しブロワ(Blois:仏中部ロワール=エ=シェール県の都市)で 編集者の仕事に就いたが、ドイツに戻りマクシミリアーネ・ブック(Maximiliane Buck)という名のドイツ人女性と結婚した。2人は製紙工場 を立ち上げ成功したが、後に火事で工場を焼失し、不運なことにマクシミリアーネもインフルエンザで3人の娘を残して亡くなった。 三年後、ドーファンはマクシミリアーネの妹マティルデと結婚し、四人の子を儲けた。その最初の子が、後に航空技師となるクロードである。 余談になるが、上記のバーデン=ヴュルテンベルクの伝記によればドーファンは葡萄酒商人となっている(恐らく最終職)。つまり彼は、 少なくともフランス語教師→編集者→製紙業者→ワイン商人と転職していったことになる。全く畑の違う業種にこうも転身するとは、 、結婚履歴も含めて中々波乱万丈な人生である。

ドーファンの父クロード・オノレ(Claude Honore D.)については、先のサイトに少し言及がある。それによれば、クロード・オノレは1819年 の生まれで、仏東部フランシュ=コンテ地方のスイス国境に隣接するドゥー(Doubs)県ポンタルリェ(Pontarlier)郡モンブノワ(Montbenoît) 小郡にある小村アルソン(Arçon)で林務官(forester)を務めていた。後に彼は貧村Corraconに移ったというが、この地名は実在しない。恐らく スイス西部のローザンヌの北東に少し行った所にあるコランソン(Corrençon)という村の事だと思われるが、他に資料が無いので断言 できない。このドルニエという姓はフランシュ=コンテ地方の発祥で、13世紀にまで遡る。

では、次にこの姓のフランスにおける分布を見てみることにする。1891~1915年の調査では全国271件中、なんと161件がドゥー県に集住して いる。更に、西に隣接するジュラ県とオート=サオーヌ県にいずれも13件と多く見られる。1966~1990年の調査結果も似たようなもので、 全国449件中、ドゥー県に229件、ジュラ件に29件、オート=サオーヌ県に17件確認される。現在の分布を更に詳しく見てみると、同県 ポンタルリェ郡ポンタルリェ小郡のポンタルリェ町(人口18939)に最も多く見られ、27件存する。次いで、ドゥー県の県庁所在地のブザンソン市(Besançon :人口117599)で24件、次にポンタルリェ郡レヴィェ(Levier)小郡ビアン=ル=ユズィエール村(Bians-les-Usiers:人口542)で20件、次に同郡 ポンタルリェ小郡のレ=フール村(Les Fourgs:人口1179)に13件である。ドルニエ家発祥の地アルソン(人口762)には、現在4件のDornier姓が 電話登録されている。どうやら分布の割合から察するに、ビアン=ル=ユズィエール村が発祥地のようだ。因みに、ビアン=ル=ユズィエール村の東 約5㎞の地点にアルソン村がある。

語源は古プロヴァンスdorna「水瓶(urne)、陶器製の水差し型手付き壺(cruche)」10, 11の動作主派生名詞に由来し、 その様な容器を扱う商人か陶工を指す姓である。これらの語はラurnaから発生しており、後に前置詞deが膠着してdornaの様な形に転じたもの らしい。
[Morlet(1997)p.343,Dauzat(1945)p.174,Kohlheim(2000)p.195]
◆古プロヴァンスdorna←ラurna(第1変化女性名詞)「水瓶、水差し、壺、籤壺(クジツボ)、投票箱、骨壷」(仏urne「骨壺、古代の水瓶、投票箱」,伊urna 「壺、投票箱、棺」,コルシカürna「骨壺、投票箱、(小)箱」,西urna「投票箱、壺」,葡urna「骨壺、投票箱、小箱」,ルーマニアurnã「骨壺」)← *urc-nā←(?)外来語(ラurceus「取っ手のついた壺」,orca「大壺」,ギ(h)úrkhē「水差しの類、塩漬けにした魚を入れる陶器製容器」) 12。語源不明。ラテン語の祖形を*urc-nāとする解釈は、ドイツの印欧語学者ブルークマン(Karl Brugmann)の発想によるものらしい。 外来語由来説としては、ヘブライ'ăraq「土」と関係付ける説がある13。他に以下の説がある。
●ラūrere「焼く」由来説14・・・urnaの原義を「土を焼いて作った容器」と想定する。動詞ūrereの完了 能動態はussī、過去分詞はustus、又抽象名詞を作る接尾辞が後続して派生したustiō「焼く事、火傷」 等の例から動詞語根はus-である事が解る(PIE*eus-「焼く」のゼロ階梯に由来する。ūrereの形は、有史以前に他の動詞との 類推から、動詞語根と動詞形成接尾辞との間に母音が挿入された為か?。uが長母音化している理由は良く判らない)。このus-に名詞形成接尾辞-naが付いたらurnaなどという形には発達しないが、 不定詞ūrereから逆生したur-という語根からurnaが作られたとすれば、一応説明が付いた様には見える。但し、今度はūが短母音化している理由が説明 できない。何だか胡散臭い説である。
●バルト語の「簗(ヤナ)」を意味する単語と関係付ける説13・・・リトアニアwáržas「魚を獲る為の籠、簗」,ラトヴィアwarʃa「簗」と関係付ける説が、 ヴァルデのラテン語語源辞典に載っている(元々はVaničekとBezzenbergerの説らしい)。これらのバルト語の単語の素性は不明で、他の辞書ではその存在を確認できない 。vでなくw、そしてʃというリトアニア語とラトヴィア語の表記には普通用いられない文字が混じっている点が、胡散臭さを倍増させている。素人目には、PIE*werg-「囲う、閉じる」 (ギeirgmós「牢獄」,古アイルランドfraig「壁」,サンスクリットvrajá-「障害物」,古ペルシアvardana-「地方自治体」)15に遡る様に見受けられる けれども、学者がどう判断しているのか私は知らない(ポコルニーの辞典ではPIE*werg-「囲う」の項に、上記のバルト語語彙を載せていない)。尚、PIE*werg-自体は、PIE*wer-「覆う」から派生した拡張形である。
1 "La Nouvelle revue héraldique, historique et archéologique. vol.11"(1933)
2 Jules Gauthier "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790: archives civiles, série B : chambre des comptes de France-Comté. vol.3"(1895)p.123
3 "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790, Haute-Saône: Archives ecclésiastiques, Séries G, H. vol.5"(1901)p.5
4 A. Dornier "Répertoire sommaire des titres de familles conservés aux archives du Doubs : Série E - Supplément."(1918)p.232
5 Louis Suchaux "Galerie biographique du département de la Haute-Saône. vol.1"(1864)p.118
6 http://www.dornier.co.za/about
7 Joachim Wachtel "Claude Dornier: ein Leben für die Luftfahrt."(1989)p.11
8 Bernd Ottnad, Fred Ludwig Sepaintner "Baden-Württembergische Biographien."vol.3(2002)p.42
9 Dornier-Werke GmbH "50 Jahre Dornier. 1914 - 1964."(1964)p.13、Dornier GmbH "Dornier: die Chronik des ältesten deutschen Flugzeugwerks."(1983)p.11
10 de Rochegude(1819)p.101
11 Morlet(1997)p.345
12 Chantraine(1968-80)p.1161、Buck(1949)p.347、ロベール仏和大辞典p.2480、Boisacq(1916)p.1006
13 Walde(1938-1956)p.859
14 英語語源辞典p.1509、http://en.wiktionary.org/wiki/urna#Latin
15 Pokorny(1959)p.1168

執筆記録:
2011年7月20日  初稿アップ
PIE語根D-or-n-ier: 1.*de-, *do- 指示詞形成要素、前置詞・副詞語幹; 2.(?)*eus-「焼く」; 3.*-no- 形容詞・名詞形成接尾辞; 4.語根不詳

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