伊≪ヴェーネト方言≫nogàra,noghèra「胡桃の木」の複数形に前置詞冠詞dalle(←前置詞da「~から」+冠詞le)が前置して形成。「胡桃林より」の意。
Vivianus de Laudento de Nogaria(1162年Verona(ヴェーネト州))
1
Bolfacino fu Giovanni dalla Nogara(1393年Rovereto(トレンティーノ=アルト・アディジェ州))
2
Francesco di Ziliotto dalla Nogara in contrada Pedemuro(1493年Vicenza(ヴェーネト州))
4
Antonio di Padova dalla noghera(1824年Fossalunga(ヴェーネト州))
4
居住地姓。日本のモデル、タレントのダレノガレ明美(Dalle Nogare Akemi:1990.7.16 São Paulo(ブラジル)~)の姓。苗字はイタリア系で、
イタリア語の発音に即せば
ダッレ・ノガーレと転写するのが良い。東京ブラジル総領事館のサイトに日系ブラジル人のリストらしきものがあり、
その中に"DIANA AKEMI DALLE NOGARE YAMAUCHI"という人名が見える
5。ダレノガレ明美さん、ご本人であろうか?。この苗字はイタリア国内では北東部ヴェーネト州の
ヴィチェンツァ(Vicenza)県に分布が集中し、他ではあまり見られない。電話番号ではイタリア全土で176件登録があるDalle Nogare姓の
世帯のうち、120件がヴェーネト州、そのうち111件がヴィチェンツァ県の登録である。県内コムーネにおける内訳はスキオ(Schio)で30件、
コンコ(Conco)で18件、サントルソ(Santorso)で10件となっている。
本姓は確認できうる限りの文献・ネット資料に記載がないが、イタリア語ヴェーネト方言のnogàra,noghèra「胡桃(クルミ)の木」
6, 7の複数形に前置詞冠詞dalle(←前置詞da
「~から」+冠詞le(女性形冠詞laの複数形))が前置して形成されているのは明らかであり、即ち「胡桃林より」の意(マルピコス説)。日本語の「ナッツ」(英nuts)とは語源上関係が有る。
単数形起源のノガーラ(Nogàra)姓もイタリア北部のヴェーネト州とロンバルディーア州に極端に多いが、前置詞冠詞付きの†ダッラ・ノガーラ
(Dalla Nogara)姓は廃用。
一方、ラペッリのヴェーネト州の苗字本によるとノガレー(Nogarè)姓も掲載されており、相当珍しい名字のようである。こちらは、ヴェーネト州
トレヴィーゾ(Treviso)県のコムーネ、クロチェッタ・デル・モンテッロ(Crocetta del Montello)にある小地名ノガレー(Nogarè)に由来する。
この地名はヴェーネト方言nogàra,noghèra「胡桃の木」に集合名詞形成接尾辞-edo(←ラ-ētum)が接続して生じた派生形が元になっており、
後に語末の-doが摩耗・消失して現名に至った。語末にアクセントが有るのはその名残である。また、トレンティーノ=アルト・アディジェ州トレント
(Trento)県にも同語源のノガレード(Nogarédo)という地名がある。この地名もかつて苗字として存在していた(現在、廃用)。以下に
参考までにその廃姓の用例を挙げておく。
Franceschino fu Crespino di Nogaredo, ... ,
Tomaso fu Antonio da Chiusole abitante a Nogaredo
(1393年Rovereto)
2
[Rapelli(2007)p.501]
◆伊≪ヴェーネト方言≫nogàra,noghèra「胡桃の木」←俗ラ,中ラ*nucārius,*nucāria(コーモ方言nogera,マントヴァ方言nogàr,フリウリ方言
nuyar,nogàr,カラーブリア方言nucara etc.
8)(ラ-ārius≪男性形≫,-āria≪女性形≫は「~に関するもの・人・場所」の
意の名詞を作る接尾辞)←ラnux(語幹nuc-)(語根女性名詞)「堅果、胡桃やナッツ(の木)」(伊nóce「胡桃」,仏noix「胡桃、ナッツ、堅果」,カタルーニャnou「木の実、
ナッツ」,西nuez「胡桃」,葡,ガリシアnoz「胡桃」,サルデーニャnuche,nug(h)e,シチリアnu(s)ci「堅果」,ルーマニアnuc「胡桃(の木)」,nucă「胡桃、
ナッツ」)←PIE*knuk-(ゼロ階梯)←*kneuk-(拡張形)←*kneu-「堅果」(古高独(h)nuz「堅果」,古アイルランドcnú「堅果」,中ブルトンknoen「堅果」,
アルバニアnyç「木の瘤」)
9。cf.
ナットコーム
(Nutcombe)
1 Lodovico Perini "Istoria Delle Monache Di S. Silvestro Di Verona. vol.2"(1720)p.11
2 Gustavo Chiesi "Regesto dell'Archivio comunale della città di Rovereto."(1904)
3 Giangiorgio Zorzi "Contributo alla storia dell'arte vicentina nei secoli XV e XVI."(1916)p.57
4 Lorenzo Crico "Guida artistica del trevigiano."(1833)p.78
5 http://www.consbrasil.org/index.php/component/content/article/86-contatoscomunicados/509-venha_retirar_seu_titulo_eleitoral2#
6 "Nomi d'Italia. E significato dei nomi geografici e di tutti i comuni."(2010)p.433
7 Lodovico Pizzati "Venetian-English English-Venetian: When in Venice Do as the Venetians."(2007)p.605
8 Libreria antiquaria Palmaverde "Studi mediolatini e volgari. vol.35"(1989)p.62
9 Watkins(2000)p.43、Pokorny(1959)p.558、Buck(1949)p.379、http://en.wiktionary.org/wiki/nux
更新履歴:
2014年12月18日 初稿アップ