Simon de Cauendis(1201年、サフォークのどこか)
1
Geoffey de Cavendisshe(1310年London:バックル作り職人)
2
Johan de Cauendishe(1358年Walsham(ノーフォーク)
3)
4
William Cavendisshe(1400年London)
5
=
William Cavendyche(1403年London)
6=
William Cavendysshe(1403年London)
6
=
William Caundische(1423年London)
7=
William Cavindische(1424年London)
8
Cristian Cawndishe ...
Cristian Cawndyshe(1516年Lambeth(ロンドン))
9
Margaret Cawndysshe(1560年Cold Norton(エセックス))
10
地名姓。英国の化学者・物理学者ヘンリー・キャヴェンディッシュ(Henry Cavendish:1731.10.10 Nice(仏、アルプ=マリティム県)~
1810.2.24 London)の姓。ロンドン市内南西部に多い。14世紀には既にロンドンで多く記録されている。
発祥地はイングランド東部サフォーク州セイント・エドマンズべリ(St Edmundsbury)地区の
キャヴェンディッシュ(Cavendish)村だが、
この地一帯には現在全くと言って良いほど分布しておらず、早い時期にロンドンに移住したようだ。地名Cavendishは『ドゥームズデイ・ブック』
(1086年)に初出で9例見出されるが、綴りが安定していない。原古文書からのアルファベット転写も資料によって異同が有る。先にKeats-Rohanと
Thornton編著の『ドゥームズデイ・ブック』固有名詞索引から。
Kanauadis |sic|(1086年:DB, sf0846/350a)
11
Kanauadisc |sic|(1086年:DB, sf7620/449a)
11
Kauanadis(1086年:DB(二見), sf7606/448a, sf7607/448a)
11
Kauanadisc(1086年:DB, sf7603/448a)
11
Ranauadis |sic|(1086年:DB, sf4302/428b)
12
Ranauadisc |sic|(1086年:DB(三見), sf25047/392b, sf4302/428a, sf7620/449a)
12
次にBriggs編著の『ドゥームズデイ・ブック』地名索引から。
Kanauadis |sic|(1086年:DB, 350)
13
Kanauadisc |sic|(1086年:DB, 449)
13
Kanavadis |sic|(1086年:DB, 428b)
13
Kanavadisc |sic|(1086年:DB(二見), 428, 428)
13
Kavanadis(1086年:DB, 448)
13
Kavanadisc(1086年:DB(二見), 447b, 447b)
13
Ranauadisc |sic|(1086年:DB, 392b)
13
『ドゥームズデイ・ブック』の原典紙面を見た訳でないので断定しかねるが、有声唇歯摩擦音[v]を表す字母が"u"と"v"どちらが使われているのか
、頭文字がKなのかRなのか、判別が難しい例が有るようである。この2点以外は両者の転写に違いは無い。その上で観察してみると、
第二音節と第三音節の子音がn-vとv-nで互易している事が分かる。前者は6件、現名と同じ後者は3件である。『ドゥームズデイ・ブック』
以降の記録は以下のものや上掲古姓一覧を参照のこと。
Caundysshe(1462年)
14
Candiſhe(1610年)
15
『ドゥームズデイ・ブック』以外ではn-v綴りが現れないので、n-vは誤記であると見なされる。
第二要素は古英edisċ「柵で囲われた牧場、囲い地、耕された田畑」
16(cf.
ブラームス(Brahms)②)。第一要素Kavana-は人名の属格形と解釈される。
ただ、その正体については二つの意見が有る。古期英語の男名カーヴァ(Cafa)とする説と
17, 18(
英Wikipediaもこの説を採用(2016年2月25日閲覧))、未文証の男名カーヴナ
(*Cāfna)とする説である
19, 20。
前者Cafaは文献ではCaua
21の形で見え、古英cāf「活発な、快活な、元気な、素早い、勇敢な」
22(英語以外のゲルマン語の対応語が確認されておらず、語源不明)という形容詞から派生しており、「元気な奴、
勇(イサム)」といった意味を持つ。サールの古英個人名辞典には4例この名を挙げる(内、1例のみCawoに作る)。古期英語期では
比較的有り触れた名であったようだ。ただその属格形はCaua(n)、Caue(n)で、一方地名の初出形は前半要素がKauana-で現われており、
最後の-a-を説明出来ないのが難点である。最後の-aは第二要素の古英edisċの最初の母音の可能性も考えたが(実際その祖形はゲルマン
*atiskaz
23と再建されている)、前舌のiが後続する環境でeがaで現われるとは考えにくい。地名では古英edisċが
第二要素に来る場合、早い段階で大抵最初の母音e-が失われた形で記録されている事も考慮される。
以上の様に文証される男名Cauaでは上手く説明出来ない為、改良版として後者の*Cāfna由来説が新たに提出されたようだ。この名も古英cāf
「元気な、勇敢な」からの派生である
24。語末部分の-n-という接尾辞は古英の指小辞-en
25
(cf.
ブレンキンソップ(Blenkinsop)
)であろう。指小辞部分にはアクセントが無い為、音節核の母音-e-が弱化・消失したものと考えられる。その後ろに古英-a(n語幹男性名詞
形成接尾辞:男性の短縮名を形成する機能が有った)を更に加えたのが*Cāfnaだろう。古英dēore,dīere「愛しい、高価な、高貴な」
26から生じたDeorna
27、古英ēad「富、幸運」
28から生じたEdena
29など、
極めて稀だが同じ派生方式による古英語の人名が記録に見え、*Cāfnaという男名は論理上は有り得ると考えられる。従って、この地名は
「*Cāfna(人名:←古英cāf「元気な、勇敢な」)の囲い地・田畑」が原義ということになる。
因みに男名*Cāfnaに因むと見られる地名がもう一つ同じサフォークに存する。サフォーク北西部フォレスト・ヒース(Forest Heath)地区の
キャヴェナム(Cavenham)で、『ドゥームズデイ・ブック』の初出に
Kanauaham |sic|(1086年)
20、後
Cauenham(1198年)
20の形で
現われている。初出形はn-vの互易を正すとやはり第一要素がKauana-で現われており、この地名も*Cāfna由来と見るのが妥当である。
[Reaney(1995)p.88, Harrison(1912-1918)vol.1 p.73, ONC(2002)p.117, Lower(1860)p.55, 苅部(2011)p.53]
1 Reaney(1995)p.88
2 Henry Thomas Riley "Memorials of London and London Life, in the XIIIth, XIVth, and XVth centuries. a.d. 1276-1419."(1868)p.xxvii
3 この地名はノーフォークに
2ヵ所ある。どちらかは不明。
4 "Norfolk Archaeology. vol.10"(1888)p.356
5 Lisa Jefferson "The Medieval Account Books of the Mercers of London: An Edition and Translation."(2009)p.154
6 ibid. p.172
7 ibid. p.350
8 ibid. p.348
9 William Harvey, Joseph Jackson Howard "The Visitation of Suffolke. vol.1"(1866)p.212
10 "Collections for a History of Staffordshire. vol.13"(1892)p.209
11 K. S. B. Keats-Rohan, David E. Thornton "Domesday Names: An Index of Latin Personal and Place Names in Domesday Book."(1997)p.414
12 ibid. p.459
13 Keith Briggs編著
『ドゥームズデイ・ブック地名現名アルファベット順索引』p.132、2016年2月25日閲覧
14 "Calendar of the Close Rolls Preserved in the Public Record Office. vol.1"(1949)p.114
15 http://www.suffolkcamra.co.uk/pubs/place/61
16 英語語源辞典p.1602、http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_e.html
17 Johnston(1916)p.189
18 Walter W. Skeat "The Place-Names of Suffolk."(1913)p.20
19 James Rye "Popular Guide to Suffolk Place Names."(1997)p.16
20 ONC(2002)p.976、Mills(2011)p.103
21 Searle(1969)p.126
22 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_c.html
23 http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_a.html
24 ONC(2002)p.117
25 英語語源辞典p.428
26 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_d.html
27 Searle(1969)p.165
28 http://www.koeblergerhard.de/ae/ae_e.html
29 Searle(1969)p.222
更新履歴:
2016年3月31日 初稿アップ