Wilielmo Cagnacio de Porta(1198年Genova(リグーリア州))
1
Gisulfo Cagnazio(1210年Savona(リグーリア州))
2
Iacobo Cagnacio ...
Guillielmo Cagnacio(1239年Torino(ピエモンテ州))
3
Ansaldo Cagnazio(1256年Torino)
4
Johannes Cagnacia(1279年Asti(ピエモンテ州))
5
Iordanum Cagnaccium(1288年Torino)
6
Nicolaus Ugonis de Cagnaciis(1465年Ferrara(エミーリア=ロマーニャ州):公証人)
7
Joannes Cagnazzo(1521年Bologna(エミーリア=ロマーニャ州))
8
Ioannes alias Cagnaccio(1539年Imola(エミーリア=ロマーニャ州))
9
Tommaso Cagnazzo abruzzese(1798年Foggia(プッリャ州))
10
ニックネーム姓。標準発音のより正確なカナ転写はカンニャッツォ。イタリア中に見られる姓だが、分布比重がイタリア北西部(ピエモンテ州、
ロンバルディーア州、リグーリア州)と南東部(プッリャ州、特にイタリア半島の踵部分)に偏っている。特にプッッリャ州レッチェ県に極端に多い。同源異綴の姓に
カンニャッツォ(
Cagniàzzo:稀姓、プッリャ州)、カンニャッソ(
Cagnasso:ピエモンテ州)、複数形起源のカンニャッツィ(
Cagnazzi:
ロンバルディーア州、プッリャ州)、カンニャッスィ(
Cagnassi:ピエモンテ州)、カンニャッチ(
Cagnacci:トスカーナ州北部)、
その他にも様々な派生形が存在する。
伊cagna「雌犬」に指小辞-zzoが接続して生じた渾名を起源とし、「雌犬ちゃん」の意。また、単純に伊cane「犬」に指小辞が接続して生じた渾名*Cagnaccioに
由来し、性格や仕草、容姿など何らかの形で犬に似ていた人物か、或いは愛犬家等を表したものと考えられる。トスカーナ方言のviso cagnazzo
「真っ赤な顔、青白い顔」と関連し肌の色にちなんだ渾名に由来する姓の可能性もある
11。
カンニャッツォ(Cagnazzo)姓はイタリアの詩人ダンテ(Dante Alighieri:
1265~1321)の叙事詩
『神曲(Divina Commedia)』
地獄篇第二十一歌から第二十三歌に登場する地獄界(第八圏第五の嚢)で死者を罰する12人の鬼
マレブランケ(Malebranche)の
一人の名前としても登場する(『神曲』地獄篇第二十一歌119行)。マレブランケの統領マラコーダが、地獄を旅するウェルギリウスとダンテ一行の
案内人として10人の鬼の一人として三番目に指名される。藤谷道夫訳『ダンテ『神曲』地獄篇対訳(下)』ではカニャッツォを「狆くしゃ」と
訳している。野上素一訳『世界文学大系 ダンテ』(1962)では脚注にて、「犬のようなひしゃげた顔をした者」と説明されている
12。また、英語では"Nasty Dog"(nastyは「不快な、汚い、卑劣な」の意)と
解釈されている。これらはいずれも彼等の容姿の想像を掻き立てるために意訳されているが、指小辞-zzoを訳に反映している
「狆くしゃ」が最も適当なのではないかと思う。
[上掲写真:Copyright (C) 1991 SQUARE ENIX CO., LTD. All rights reserved. FF4のボス、カイナッツォ]
『ファイナルファンタジー4』(1991年7月)のラスボス「ゴルベーザ」の直属の部下「ゴルベーザ四天王」の一人「水のカイナッツォ」の
名前は、このマレブランケの一人カニャッツォを拝借したものだが、微妙に名前が異なっている。これは、フランスの外交官・人文学者
ノエル(François Noël:1756~1841)が
著した『神話辞典(Dictionnaire de la fable)』(1801年)に記載されているこのマレブランケの誤表記Cajnazzoを、正確な経緯は不明だがそのまま
踏襲してしまったものだと考えられる(下掲写真参照)。FF4のボスの一人カルコブリーナも『神曲』の原典ではカルカブリーナ
(Calcabrina)で、これも『神話辞典』の誤表記が元になっているとみられる。詳細は
カルカブリーナ
(Calcabrina)を参照のこと。恐らく、ノエルが参考にした資料の印刷されたgの文字の上の円の上辺の弧がかすれていた等の理由で、
yと見間違えたのが原因だろう。
[黄色に色づけした部分が問題の個所(『神話辞典』(1801)p.457)]
因みに、カイナッツォ(
Cainazzo)という苗字もイタリアに実在する(残念ながらCajnazzoの方は存在しない)。Cainazzo姓は
イタリア南東部のプッリャ州フォッジャ(Foggia)県に多い姓である。恐らくアラビア語のkahina「魔女、女性占い師(maga, indovina)」に
由来するとされる南イタリアの姓カイナ(
Caina)
11の指小形に由来するものだろう。
[Rapelli(2007)p.227, Minervini(2005)p.112]
1 J.E. Eierman, H.G. Krueger, R.L. Reynolds "Notai Liguri del sec. xii, III. Bonvillano (1198)."(1939)p.37
2 Genoa Lanfranco (13th cent., notary) "Lanfranco (1202-1226) a cura. vol.1"p.320
3 "Historiae patriae monumenta. vol.1"(1836)sp.1341
4 "Atti della Reale Accademia dei Lincei. vol.2 part.6 (anno CCLXXIII)"(1880)p.1091 (#941)
5 ibid. p.1176 (#978)
6 "Historiae Patriae Monumenta. vol.11 Scriptores. part.4"(1863)sp.1408
7 Arnaldus Speroni degli Alvarotti "Adriensium episcoporum series historicochronologica monumentis illustrata."(1788)p.173
8 Johann Albert Fabricius, Christian Schöttgen, Giovanni Domenico Mansi "Bibliotheca latina mediae et infimae
aetatis. vol.3"(1754)p.148
9 Giulio Cesare Cerchiari "Ristretto storico della città d'Imola."(1847)p.162
10 Minervini(2005)p.112
11 Rapelli(2007)p.227
12 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B1
更新履歴:
2015年6月26日 初稿アップ