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概要
①伊boemo「ボヘミア人」の複数形に由来。
②シチリアの地名ブシェーミ(Buscemi:原義「ほくろの男」)に因むBuscemi姓の短縮形より。
詳細
①ニックネーム姓。ボエーミ(Boemi)姓の異形。伊boemo「ボヘミア人」の複数形に由来しており、その意味で*Boemoという渾名を付けられた先祖の子孫である
事を示す。cf.ベーム(Böhm)
[Fucilla(1949)p.110, http://www.favoris.ch/patronymes/index.html]
Iacopo Buxemi (1584年Venezia)1
②地名姓。スイスのF1レーサー、セバスチャン・オリヴィエ・ブエミ(Sébastien Olivier Buemi:1988.10.31 Aigle(ヴォー州)~)の姓は、また
別の語源を持つ。彼の故郷スイスでは、西部のレマン湖湖畔地域に見られる。
Wikipediaイタリア語版に面白い指摘がある2 。それによれば、彼の祖父はシチリア島のメッシーナ(Messina)県の
コムーネ、ノヴァーラ・ディ・シチリア(Novara di Sicilia)の出身で、元の姓はブシェーミ(Buscemi)といい、後にブエミに改姓したとある。
Buscemi→Buemiの改姓は、イタリア姓の語源を扱ったロッソーニ氏のサイトでも指摘されており(但し、ここではF1レーサーのブエミの事には
全く触れていない)3 、どうも事実のようである。
ブシェーミ姓はシチリア島特有の姓で、特に同島南部と東部に集住。シチリア州シラクーザ(Siracusa)県のコムーネ、ブシェーミ(Buscemi:シチリア
方言形はBuscema)の名に由来する地名姓である。以下に地名の歴史上の変遷を列挙する。
Buscemiet (1168年)4
sancti Spiritus apud Buyssem in loco(1192年)5
exequtoria concessionis Castri Busseme (1271年)6
et castri Buxeme in Sicilia(1456年)7
quam obtinuit de Eccleſia ſancti Ioannis de Buxema (1467年)8
地名の語源に関して、Wikipediaイタリア語版に詳しい記述がある。それによると、以下の通り9 。
"地名はアラビア語Qal'at abî Śâmah、即ち「ほくろを持つ男の砦」、或いは「意欲の人の砦」(イドリースィーの『Geografia』に見える)に由来する。
qal'atは「要塞」や「城」を表し、他の多くのシチリアの都市名の要素として現れる(例:Caltagione、Calatafimi、Calascibetta)。(中略)
「ほくろを持つ男」とは、恐らくマホメットの多くの付加形容詞の一つと考えられる。マホメットは背中に大きなほくろが有ったと伝えられており、
これは「お告げの印(Khatam An-Nubuwwa)」だとされている。つまり、イスラム教徒に言わせれば、彼の預言者としての宿命を表したシンボルであると
考えられた。確かに聖書(マルピコス註:旧約聖書のことであろう)には、最後の預言者はその証に肩に印を持つと解釈できる箇所がある。
地名の他の名称としては、Abu Xamah、Abuxama(xは[ʃ]の様に発音される)、また転訛形Abisamaがある。シチリアのノルマン人王朝時代には、ラテン語
形Buxemma、Bussemaが用いられている。更に、Buscemiはシチリア島に、特にその東部に極めて多い姓となっている。"
地名は元々当地に在った城砦の名前に因んでいる。この「ほくろを持つ男」由来説はパローディやフランチパーネの伊姓辞典でも紹介されており、
最も有力な説である10 。但し、フランチパーネによれば、単純に城砦の創設者の渾名に因むという見解を採っている。
マホメットの付加形容詞に因むという説に根拠が見出せないとすれば、フランチパーネの見解の方が信憑性が高いといえる。私も、マホメットとの
関係は見出せないと思うので、城砦創設者の名に因むという説を採る。
尚、第一要素は恐らくアラビアʔab-「父」(<セム*ʔab-「父」(アッカドabu,ウガリトʔab,フェニキアʔb,ヘブライ
ʔāb,アムハラabbat))に遡ると思われるが、私はセム語系は判らないので何ともいえない。ブシェーミ姓を持つ有名人としては、米国の俳優スティーヴ
・ブシェミ(Steve Buscemi:1957~)がいる。
[Francipane(2005)p.352,Minervini(2005)p.109,Parodi(2006)p.63,Fucilla(1949)p.110]
◆アラビアšām-at-「ほくろ、印、地面の黒い染み」←セム*ŝaw/ym-at-「痣(アザ)、ほくろ」(アッカドšimtu「痣」,ヘブライšūmā「印、ほくろ、疣(イボ)」,
シリアšūmǝtā「傷、瘢痕、蚯蚓腫れ」)11 。
1 Diego Ciccarelli "La Circolazione libraria tra i Francescani di Sicilia."(1990)p.167
2 http://it.wikipedia.org/wiki/S%C3%A9bastien_Buemi
3 http://www.cognomiitaliani.org/cognomi/cognomi0002ro.htm
4 Minervini(2005)p.109
5 Ente provinciale per il turismo di Trapani "Sicilia archeologica."(2002)p.105
6 Angelo Broccoli "Archivio storico campano. vol.1"(1889)p.55
7 Giovanna Motta "Biblioteca dell'Archivio storico italiano. vol.23"(1983)p.52
8 Diego Antonio Francés de Urrutigoiti "R.P. Francisci Peña sacræ rotæ decani. Recollectae decisiones."
(1650)p.398
9 http://it.wikipedia.org/wiki/Buscemi
10 尚前者ではabu-samah、後者ではabī-šāmaとアラビア語のローマ字転写形を挙げている。
11 http://starling.rinet.ru/cgi-bin/query.cgi?root=config&morpho=0&basename=\data\semham\semet (#2221)
執筆記録:
2012年1月21日 初稿アップ
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