Barrichello バリケッロ(慣用:バリチェロ)(伊)
概要
伊≪マントヴァ方言≫barichèl「小柱、ピン」に由来し、「いつも動き回っている人」を意味する渾名から。
詳細
ニックネーム姓。ブラジルのF1レーサー、ルーベンス・ゴンサウヴェス・バリチェロ(Rubens Gonçalves Barrichello:1972.5.23 São Paulo(ブラジル南東部)~)の姓。 バリチェロの表記は誤りで、ブラジルポルトガル語の発音ではバヒケールに近い1。彼の先祖はジョヴァンニ・バリケッロ(Giovanni Barrichello) というイタリア人で、他の兄弟3人と共に1885年にブラジルに渡り、ミナスジェライス州を経由してリウ・ダス・ペドラス(Rio das Pedras: ブラジル南部サンパウロ州)市に移住した2。この一族の出身地はイタリア北東部ヴェネト州のトレヴィーゾ県のリエーゼ・ピオ・デーチモ (Riese Pio X)というコムーネ(地方自治体)であった。ジョヴァンニにはJacobという息子がおり、Jacobの息子RubensがF1レーサーのルーベンス・ バリチェロの祖父に当たる。現在のイタリアではバリケッロ(Barrichello)は大変珍しい姓で、イタリア北東端のフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州 で1件確認されるのみであるが、一字少ないバリケッロ(Barichello)姓はヴェネト州中央部に多く集住する。リエーゼ・ピオ・デーチモの 位置もこの集住地の内部に存在し、Barrichello姓がBarichello姓のヴァリアントであることが判る。Barichello姓は他の地域では、ロンバルディーア州 西部にもそこそこ見られる。

姓はラペッリ(Giovanni Rapelli)のヴェローナ(Verona:ヴェネト州西部)の苗字辞典に採録されている。それによれば、伊≪マントヴァ方言≫ barichèl「小柱、ピン(birillo)」を語源とし、恐らくは「いつも動き回っている人、活発な人」を意味する渾名から生じた姓としている 3。姓の古い用例としてはFranciſcus Barichellus4が確認できたが、採録地が 良く判らない。年代は1585年以前。これ以外には確認できなかった。

barichèl「小柱」は恐らく俗ラ*barrīca「樽、防御柵」(>英barricade「バリケード」,embargo「港内出入り禁止」)に指小辞のラ-ellusが後続して 形成された語であろう。俗ラ*barrīcaは俗ラ*barra(m)「柵、横木、防御柵」(>(古)仏barre「梁、横木、防御柵」,英bar「横木、柵」)の派生語である。 ドイツのラテン語学者ガミルシェク(Ernst Gamillscheg)の見解によれば、大陸ケルト(ゴール)語の*barros「ふさふさした末端(the bushy end)」 (アイルランドbar「枝(branch)」)に遡るとしている5。このガミルシェクの解釈は私の勘だが、恐らく PIE*bhar-「突出、動物の剛毛、先」(cogn.英bristle「動物の剛毛」)を語根に想定したものではないかと思う。
[Rapelli(2007)p.152]
1 http://ja.forvo.com/word/rubens_barrichello/#pt
2 http://www.teleresponde.com.br/rubens.htm
3 Rapelli(2007)p.152
4 Alexander de Imola "Consiliorvm seu reſponſorum, Alexandri Tartagni Imolensis I. C. Celeberrimi. vol.3" (1585)p.124
5 http://www.etymonline.com/index.php?term=bar&allowed_in_frame=0

執筆記録:
2012年1月7日  初稿アップ
PIE語根Barr-iche-llo: 1.(?)*bhar(s)-¹「突起、剛毛、先端」; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*-lo-指小接尾辞

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