Libero del fu Giovanni Barbariza(1413年Trieste(フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州):司教座聖堂助祭)
1=
Libero del fu Giovanni Barbariça(1418年Trieste)
2=
Libero Barbariça(1418年Trieste)
3=
don Liberio Barbariça(1420年Trieste)
3=
don Libero Barbariza(1425年Trieste)
4=
Liberus Barbariza(1431年Trieste)
5=
Libero Barbariza(1443年Trieste)
6
=
Libero Barbarizza(1446年Trieste)
7
Katharina Barberiza(1532年Zagreb(クロアチア))
8
ニックネーム姓。イタリア北東部フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州ゴリツィア県のコムーネ、スタランツァーノ(Staranzano)に2件確認される
稀姓。伊barba≪女性名詞≫「髭」に伊rìccio「髪が縮れた」の女性形rìcciaが後置して生じた渾名*Barbaricciaに由来し、「もじゃもじゃ髭」を意味する
(cf.バルバロッサ(Barbarossa):「赤髭」の意。後半は伊rósso「赤い」の女性形róssa)。上掲の通り古い用例がイタリア東北端のトリエステで見られ、
後半要素は対応する方言形の伊≪トリエステ方言≫rizo「髪が縮れた」
9の女性形riza
であった。これが後に標準語(トスカーナ方言)のricciaに交換されて現名に至った。従って、「巻き毛の(人)」を意味する姓で、イタリアで
8番目に多い大姓リッチ(Ricci)と後半要素が同語源ということになる。
イタリアの詩人ダンテ(Dante Alighieri: 1265~1321)の叙事詩
『神曲(Divina Commedia)』 地獄篇第二十一歌から第二十三歌に登場する地獄界(第八圏第五の嚢)で死者を罰する12人の鬼
マレブランケ(Malebranche)
の一人の名前でもある。藤谷道夫訳『ダンテ『神曲』地獄篇対訳(下)』では、名前を「髭大夫」と翻訳している。
尚、筑摩書房の野上素一訳『世界文学大系 ダンテ』(1962)の脚注では、「野蛮なやつ」と訳されている
10。これは
名前の形態素をBarbar-icciaと分解し、伊bàrbaro「蛮族の」に指小辞-icciaが接続した名前と解釈したものである。語形成上、類型的にもイタリア語では
十分有り得る派生形式である。一方、マレブランケの名は、ダンテが同時代の人名に取材してもじって造ったとする説もある。ロッセッティ(Rossetti)
なる人物などは、ダンテが1303年のフィレンツェの政治的状況を諷刺したものと読み解く事が出来るとも考えており
11、
マレブランケの名もその様な政治勢力と関係付ける考察が有る。バルバリッチャの場合は、フィレンツェの家族名リッチ(Ricci)か、もしくはクレモナ
(Cremona:ロンバルディーア州南部の都市)で活動した皇帝党(伊ghibellino)の地方派閥バルバラージ(barbarasi)から採られたのではないかとも
言われている
12。バルバラージ派はトロンカチュッフィ(troncaciuffi)とも呼ばれ、反する教皇党(伊guelfo)の地方派閥
カペッレッティ(capelletti)と13世紀後半、クレモナの覇権を巡って争っていた
13。他にも、神聖ローマ帝国皇帝
フリードリヒ1世(在位:1152~1190年)の渾名バルバロッサ(Barbarossa)、或いはフィレンツェのバルバドーリ(Barbadori)家に由来するともされている
11。後者は1266年フィレンツェで
Uguccionis Barbadoriの人名で早い用例が見える
14。
ゲーム『ファイナルファンタジー4』(1991年7月)のボスキャラ「バルバリシア」は、このマレブランケのバルバリッチャの名に因む。
◆伊riccio「(毛が)縮れた」←ラēricius(o語幹男性名詞)「ハリネズミ」(仏hérisson「ハリネズミ」,オックeriç「ハリネズミ」,カタルーニャeriçó
「ハリネズミ」,西erizo「ハリネズミ、海胆」,葡ouriço「ハリネズミ、海胆、毬栗(イガグリ)」,サルデーニャ≪ガッルーラ方言≫rizzu,ricciu「ハリネズミ、
海胆、毬栗」,シチリアrizzu「(毛が)縮れた」,フリウリriç,rič「ハリネズミ」,ルーマニアarici「ハリネズミ」,英urchin「ハリネズミ」,アルバニア
uriq,iriq「ハリネズミ」)(指小形)←(h)ēr「ハリネズミ」←PIE*ghēr(s)-(延長階梯)←*ghers-「(毛髪などが)逆立つ」(ラporrēre「(毛髪などが)逆立つ」,
古アイルランドgortae「飢え」,古高独gersta「大麦」,リトアニアgar̃šas「セイヨウトウキ(セリ科の二年草)」,アルメニアgaršim「良くない先入観を持つ」)
15。
1 "Archeografo triestino raccolta di memorie, notizie e documenti. vol.8"(1881-1882)p.304
2 ibid. p.308
3 ibid. p.309
4 ibid. p.318
5 "Mittheilungen des Museal-Vereins für Krain. vol.19"(1906)p.150
6 "Archeografo triestino raccolta di memorie, notizie e document. vol.9"(1982)p.287
7 ibid. p.297
8 Ivan Kristitelj Tkalčić, Emilije Laszowski "Monumenta Historica Civitatis Zagrabiae. Povijesni Spomenici
Grada Zagreba. vol.14"(1932)p.57
9 http://www.dialettando.com/dizionario/detail_new.lasso?id=13421
10 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B1
11 http://www.treccani.it/enciclopedia/barbariccia_(Enciclopedia-Dantesca)/
12 Richard Lansing編集主幹 "The Dante Encyclopedia."(2011)p.302
13 http://www.treccani.it/enciclopedia/barbarasi/
14 "Istoria fiorentina di Marchionne di Coppo Stefani pubblicata."(1776)p.211
15 英語語源辞典p.1508、Pokorny(1959)p.445、Watkins(2000)p.30、https://en.wiktionary.org/wiki/ericius
更新履歴:
2015年7月2日 初稿アップ