概要
古高独brant「火事、剣」を要素に持つ男名の短縮名より。又、「焼畑」の意の地名起源、「焼畑の住人」を意味する姓。
詳細
Rudolfus ... de Brande(1240年ザクセン)1
Wollfgangus Brandt(1533年Vogtland)2
父称姓、居住地姓、地名姓。ドイツ語読みは正確にはブラント。ドイツ全域に良く見られる姓で、特にバーデン=ヴュルテンベルク州、バイエルン州、ヘッセン州の
境界にまたがる低山地地帯オーデンヴァルト(Odenwald)に多い。中世よく用いられた男子名ブランド(Brand)、ブラント(Brant)に
由来する。古高独brant「火事、焼鏝(ヤキゴテ)、燃え木、燃え火、たいまつ、≪詩語≫剣」2,古ザクセンbrand「火事、たいまつ」
3を要素に持つ男名の短縮名である。フェルステマンの古いドイツ人の人名事典のBRAND項(p.279-281)には、この語を第二要素に
持つ名前が列挙されており、Altbrand、Adalbrand、Ercambrand、Gerbrand、Heribrand、Hugibrant、Liutbrand、Odelprand、
Sigibrand、Wigbrand等50の名を挙げる。特に、今日も用いられる男名ヒルデブラント(Hildebrand:<古高独Hildibrand)の短縮名
として多く用いられた(第一要素Hildi-は「戦い」を意味している)。例えば、1277-1284年にブレーメン出身のHildebrandという人物が、Brandの名前でも記録されている
事がある4。又、シュテッティン(Stettin)では1351年にBrandという名前の店主が確認されているが、その息子もBrandと言った
4。
又、冒頭に記載の古い人名のde Brande姓は地名に由来している。これは、森を焼き払って開墾した畑を本来は意味した地名であった。
この場合は中高独brant「火事、焼畑開墾地、焼いた場所」6に由来することもある。
地名によらず、単純に「焼畑の住人」を意味する場合もある。ゴットシャルト本では、「都市内の火事で住宅が消失した地域」を
意味する地名に由来する可能性も指摘している。尚、ドイツ国内だけでもBrandという地名は40箇所以上あり、出自も多様といえる。
地名が多すぎるのと、語源もはっきりしているので、地名の詳細は割愛する。尚、ドイツの第4代首相ヴィリー・ブラント(Willy
Brandt)の姓も綴りが違うだけで、同じ姓である。
[Gottschald(1982)p.126,Kohlheim(2000)p.148,Bahlow(2002)p.55,(1982)p.26,Naumann(2007)p.81,ONC(2002)p.89,
Heintze(1903)p.106,Morlet(1997)p.136,Hellfritzsch(1992)p.60]
◆古高独brant,古ザクセンbrand←ゲルマン*brandaz(a語幹男性名詞)「火事、剣」(古英brand「燃え火、燃え木、剣」,古フリジアbrand
「火事、炎」,古ノルドbrandr「火事、燃え木」,ゴートbrands「剣」)←PIE*gwhr-(ゼロ階梯)←
*gwher-「熱くする」7。独brennen「燃える」と合わせて、ゲルマン*bren-、*bran-という語根と
PIE*gwher-との間の詳しい発達の経緯は不詳。ゲルマン*-dazはPIE*の完了分詞・形容詞形成接尾辞*-to-
に由来する。
1 Ernst Eichler, Hans Walther "Historisches Ortsnamenbuch von Sachsen."vol.1(2001)p.105
2 Hellfritzsch(1992)p.60
3 Köbler ahW B項p.141-142、Kohlheim(2000)p.759
4 Köbler asW B項p.71
5 Bahlow(2002)p.55
6 Lexer vol.1(1872)sp.340
7 英語語源辞典p.154、Watkins(2000)p.35、Köbler idgW Gwh項p.6
執筆記録:
2011年6月6日 初稿アップ
PIE語根Bran-d:1.*gwher-「熱くする」;2.*-to-完了分詞・形容詞形成接尾辞
Copyright(C)2010~ Malpicos, All rights reserved.