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Bragge ブラッグ
概要
①「元気な人、行動家、自慢屋、法螺吹き」を意味する。
②古ノルド語の男名Bragi「一番の人、最高位の人」に由来。
詳細
Walter Bragge(1243年Somerset)1
Henry Brag(1260年Cambridgeshire)1

以下の2つの説がある。
①ニックネーム姓。中英brag(ge)「元気の良い、活発な、陽気な、威勢の良い、自慢する」2(>英brag)に由来し、「元気の 良い人、活動家」を表す姓。この語は姓としての用例の方が早く、一般形容詞としての用例は1325年頃が初出である。 ハリソンは、中英braggen「自慢する」2に由来するとし、「自慢屋、法螺吹き」を表す姓だとしている。この動詞は前述の 形容詞から派生したもので、「自慢する」意での動詞の用例は1378年が初出。
[Reaney(1995)p.60,Harrison(1912-1918)p.46,ONC(2002)p.88]
②父称姓。ハリソンは古英語の男子名ブリャゴ(Brægo)、ブレゴ(Brego)3に由来するという説を 採っている。男名自体は古英≪詩語≫brego,bregu「領主、支配者、主人、王子、王」4遡る。 アングロ=サクソン語学者のボズワース(Joseph Bosworth)の古英語辞典には古ノルウェーbrageとの関係を示すが、brageの 語義が書いてない。古ノルド語にbragr≪詩語≫「一番の人、最高位の人(Erste, Vornehmste)」5と いう語があり、この語と同語源である6。古ノルド語のブラギ(Bragi)という名前を持つ、800年代 初期に活躍した詩人がおり7、後の文学作品で彼を神格化し、オーディンと並んで詩の神と している。西スカンディナヴィアでは、Bragiという架空の人物の名前が文学作品に登場するらしい。一方、ノース=ヨークシャー 州にある地名ブロウビィ(Brawby)の名は『ドゥームズ・デイ・ブック』(1086年)にBragebi(原義「Bragiの村」)の形で現れており、 現実にBragiが男子名として用いられていた事が確認できる。ハリソンの挙げる男子名Brægo、Bregoは、サールの古英個人名事典(Searle(1969)) に見えず、文証されているかどうか疑わしい。
古代スカンディナヴィア人の男名Bragi「一番の人、最高位の人」に由来すると見た方が妥当であろう。
[Harrison(1912-1918)p.46]
◆中英brag「元気の良い、威勢の良い」←(?)ケルトbrāca「ズボン」(プロヴァンスbraga「豪勢な服を着る」)8(cf.ブルッフ(Bruch③))。 仏braguer「見せびらかす、自慢する」,brague「誇示」(いずれも初出16世紀)は英語から入ったものと思われる(-gu-の綴りで [g]を表現しているので、英語の発音を正確に転写しようとしている事が判る)。名詞の中英brag「誇示」も初出は1387年。 ブルトンbraga「自慢する」はフランス語からの借用。別の説では、以下の通り。
中英brag「元気の良い」←中デンマークbrage「ひびが入る、自慢する」←古ノルドbraka「きしる」(アイスランドbrak「軋る事」) ←ゲルマン*brakōn「割る、ミシミシと音を立てる」←PIE*bhrog-(o階梯)←*bhreg-「壊す」(ラfragor「騒音」) 9。英breakと同根。前述のケルトbrāca「ズボン」も当語根に遡らせる説がある。cf.ブルッフ(Bruch③)、 フランジパーニ(Frangipani)
◆古ノルドbragr「一番の人」←(?)PIE*mregh-m(n)o-「脳みそ」(ギbhrekhmós「頭の頂点、額」,古英bræġen「脳みそ」,トカラAB mrāc「頭、頂上」)。 ベルギーの言語学者ヴァン・ウィンデケンス(Albert Joris van Windekens)の説で、デ・ヴリースの古ノルド語語源辞典10では 妥当な説としている(以下に挙げる諸説も同書に紹介されている)。ドイツの印欧比較言語学者のオストホフ(Hermann Osthoff)とゾルムゼン(Felix Solmsen)は古ノルド bjarg「山」(cogn.独Berg「山」)との関係を想定している。又、ドイツの言語学者トリーア(Jost Trier)は、ギpheristos「最良の」 ,アルメニアbari「良い」との関係を想定し、部族団体の中で非常に有力である人物を指すものとしている。然し、どの説も 対応とされる他語派の語彙と意味や、或いは形の上で乖離しており、憶測の域を出ない。
1 Reaney(1995)p.60
2 MED B項vol.5 p.1105
3 Harrison(1912-1918)p.46
4 Bosworth(1838)p.65、Köbler aeW B項p.123
5 Köbler anW B項p.23、de Vries ANEW vol.1 p.53
6 語義の発達は、英first「第一の」と同語源の独Fürst「領主」と軌を一つにしている。
7 http://www.vikinganswerlady.com/ONMensNames.shtml
8 英語語源辞典p.152、MED B項vol.5 p.1105
9 Skeat(1882)p.59
10 de Vries ANEW vol.1 p.53

執筆記録:
20年2月12日  初稿アップ
PIE語根Bragge:①1.*bhreg-「壊す」
②1.*mregh-m(n)o-「脳みそ」

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