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Boardman ボードマン
概要
「(土地を借りて耕す)小作人」、或いは「板職人、机職人」の意の職業姓。
詳細
George Bordman(1588年ロンドン)1
Thomas Bordman(1618年ロンドン)1
Anne Boardman(1622年ロンドン)1

職業姓。1881年当時は、イングランド北部大マンチェスタ都市州(Greater Manchester)西部のウィガン(Wigan)、 ボルトン(Bolton)両区に分布が集中しており、当地とその周辺以外では全く見られない地域特徴の濃い姓であった。 現在もこの地域が分布の中心地である。 バーズリー(Bardsley)によれば、中英*bordman「(土地を借りて耕す)小作人、(農場・小村に小屋に住む代わりに 労働力を提供する)農業労働者」1, 2に由来するとする。この単語は中世ラテン語bord(i)mannus(実際には複数形の bord(i)manni)3として文献に現れている単語で、中世ラbordariusの形で用いられることもあった(この形の 方が用例が多い)。bord(i)mannusはノルマンコンクエスト後に行われた検地結果をまとめた土地台帳『ドゥームズデイ・ ブック』(1086年)に用例が見え、シャルル・デュカンジュの中世ラテン語辞典から以下に引用する。

"In dominio est una carucata, et XXV villani et XXXIII bordmanni, cum IV carucatis."3
「1カルカタと25のvillani、4カルカタと共に33人の小作人が支配下にある」(マルピコス仮訳)4

この語の第二要素は中英man「人」だが、第一要素は中英bōrd「板、机、船、盾」5(>英board「板」)に由来していると され、前出の中世ラテン語辞典によれば、英語でbord「家(domus)」とman「人(homo)」の合成語だ としている。然し、MED等で確認しても英boardに「家」の意味が嘗てあったかどうかは確認が取れない。私の考えでは、 同義語の中世ラbordariusの英語による部分翻訳借用がbordmannusではないかと思う。ラ-āriusは「~する人」を意味 する接尾辞で、この部分を本来語の中英man「人」に交換して造られた語であろう。中世ラbordarius自体は、 古仏bordier「分益小作料徴収権が掛かっている耕作地(terre soumise au droit de bordage)」6 と関連する古フランス語から取り入れたものだろう。

ONCは別解釈を採っている。第一要素は古英bord「板、机」由来とし、「板で作った小屋の住人」の意としている。 又、ボウディッチ(Bowditch)も別の解釈をしていて、「大工」を意味する姓と解釈しているようだ。 リーニー本にはBoardman姓を録していないが、語源上関係するボーダー(Boarder)姓を録している(p.50)。 英語語源辞典のboarder項にも少し言及があり(p.137)、Boarder姓を「封建制度化の領臣」の意としている。然し、 リーニーはその意味は既出の中世ラテン語形bordariusの形で『ドゥームズデイ・ブック』にしか記録が無いこと、最近の 歴史学者が1776年以降に用語として用いている以外に使用例が無いことを指摘し、「板職人、机職人」の意の姓と している。中世ラbord(i)mannusの使用例は非常に限られていることや、Boardman姓の分布が偏り過ぎている点、 姓の記録が16世紀後半以降にしか確認されていない点など、bord(i)mannusを語源と見るには矛盾点も多い為、 リーニーのBoarder姓の解釈と同様、「板、机」+「人」の合成語と見て、「板職人、机職人」の意と見るべきかもしれない。 いずれにしても、上述の古フランス語も英board「板」も同じゲルマン語の単語に由来する同源語である。
[Harrison(1912-1918)p.38-39,Bardsley(1901)p.114,ONC(2002)p.74-75、Bowditch(1861)p.354]
◆古英bord「板、机、盾」←ゲルマン*burðam(a語幹中性名詞)「板、机」(古フリジアbord「仕切り、机」,古高独bort 「板、薄い金属板」,古ノルドborð「板、食事用机」)←PIE*bhdh-(ゼロ階梯)← *bherdh-「切る」7。古英bord「境界、縁、舷」も同じ語形成による同語言語。
◆古仏bordier「分益小作料徴収権が掛かっている耕作地」←borde「小作地」←古フランク*borda「(板張りの)小屋」 (*bord「板」の中性複数形)←ゲルマン*burðam「板」8。↑

1 Bardsley(1901)p.114
2 Peter Stotz "Handbuch zur lateinischen Sprache des Mittelalters: Bibliographie Quellenübersicht und Register."(2004)p.524
3 http://ducange.enc.sorbonne.fr/BORDA5#BORDA5-21
4 中世ラcar(r)ucata(=英plowland)地積単位の一つで、一単位約120エーカーに相当。villani(複数形)は 良く判らない。明らかにラvilla「荘園」からの派生語なので、やはり「農奴」を表す語かも知れない。
5 MED B項vol.5 p.1047-1051
6 Godefroy(1880-1902)vol.1 p.688
7 英語語源辞典p.137、Watkins(2000)p.10-11、Köbler idgW Bh項p.46
8 ロベール仏和大辞典p.290

執筆記録:
2011年6月6日  初稿アップ
PIE語根Board-man:1.*bherdh-「切る」;2.(?)*man-1「人」又は (?)*men-1「考える」

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