地名姓。非常に珍しい姓で、電話番号でニュルンベルク近郊のヴィンケルハイト(Winkelhaid)に二件(恐らく親族と思われる)、
ハノーファーに一件存する。東プロイセン南部旧ナイデンブルク(Neidenburg:pol.Nidzica)管区内にある同名の地名に
由来する。ポーランド語名はオルウォヴォ(Orłowo)で、Orlauはそのドイツ語音訳。以下に地名の歴史上の変遷を列挙する。
Orlowa(1227/1229年)
1
de
Orlavia(1305年頃)
1
von der
Orlau(1438年)
1
Orlova(1573年)
1
in villa
Orłowa(1652年)
1
na
Orlowey(1692年)
1
Orlau(1736年)
1
原義は「*Orel(人名)の居住地」。人名オレル(*Orel)
2はスラヴ祖語*orĭlŭ「鷲」
3に由来する。この個人名に物主形容詞-ovが付随したもの。同語源のオルロー(Orlow)という
姓もある。
この姓は相当にマニアックであり、苗字本にも記載が無い。有名人を全く輩出してない名の為、まず姓としての用例を
日本人が見かけることは殆ど皆無に等しい。そこで、『銀英伝』の著者田中芳樹がこの名前を何処から抽出したかと言うと、
そのソースは人名・姓ではなく、プロイセンの地名からだと思われる。パトリッケン(Patricken)とドレウェンツ(Drewenz)も
同じ事が言え、いずれもソースは人名録であるとは考えがたい(特にパトリッケンの名のマニアックさは特筆に値する)。
人名のストックが不足して、地名からも採用していたことを伺わせる(他にもリヒテンラーデ、ノイケルン、ナウガルト、
マリーンドルフ、インゴルシュタット、ペクニッツ、ベーネミュンデ(ママ)、プレスブルク等(詳しくは各項で詳述))。
尚、物主形容詞語尾-ovの由来は未確認。素人目にはPIEの形容詞形成接尾辞*-wo-(Watkins(2000)p.102)に由来しているように
見えるが、全く確認が出来ていないので確証は無い。PIE*-wo-はネガティヴとかポジティヴといった語の末尾に見える形容詞
形成接尾辞-iveの源になった語尾である(PIE*-wo-に含まれる-w-は、本来円唇性をもった喉音であったと考えられている
(cf.Martinet(2003(神山訳))p.176-178))。物主形容詞語尾-ovの由来については今後の課題としたい。
◆スラヴ祖語*orĭlŭ(o語幹男性名詞)「鷲」(露oryol,ウクライナ,ブルガリアorél,ベラルーシaról,セルボ=クロアティア
ópao,ポーランドorzeł,チェコ,スロヴェニアorel,高地ソルブworjoł,低地ソルブjerjeł,古教会スラヴorĭlŭ)←
IE*or-ilo-(+指小辞)←*or-「大きな鳥」(ギórnis「鳥」,英erne,独Aar「鷲」,古ノルドórn,ゴートara「鷲」,古アイルランド
irar「鷲」,リトアニアere~lis「鷲」,アルメニアoror「鷗」,ヒッタイト

aras(

a-a-ra-aš)(属格

aranas(

a-ra-na-aš))(n語幹)「鷲」)
3, 4。
1 Mrózek(1984)p.132
2 Schlimpert(1978)p.159
3 Chernykh(1993)vol.1 p.604
4 Pokorny(1959)p.325-326
執筆記録:
2011年1月23日 初稿アップ
2011年2月28日 物主形容詞語尾-ovの由来に関してメモ。